優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

□◆□…優嵐歳時記(108)…□◆□

    陽の光たいらに受けて鉄線花  優嵐

「鉄線花」は五月から六月にかけて咲く中国原産のキンポウゲ科の
つる性植物です。「クレマチス」とも言い、細い蔓に不似合いな
大きな平たい花を咲かせます。蔓は硬く冬には落葉して針金のように
なるのがテッセンの由来です。

園芸種として栽培されるクレマチスは中国原産のテッセンや日本の
カザグルマなどの原種を交雑させてヨーロッパで作り出されたもので、
大きな花弁に見えるのはがく片です。クレマチスはあまり手間隙を
かけず、放任栽培の方が自然に育ち、失敗が少ないそうです。

この花が咲き始めると本格的な夏の訪れも近いなと思います。

□◆□…優嵐歳時記(107)…□◆□

    梅雨入りの音を聞きつつメール打つ  優嵐

近畿地方は昨日から梅雨に入りました。昨夜はかなりたくさん雨
が降っていたようです。その雨音を聞きながら、パソコンのキー
を打っていました。今もかなり激しい雨音がしています。梅雨、
日本人なら独特の感慨を持つでしょう。日本の夏を三つに分ければ
立夏から入梅までの初夏と、梅雨、梅雨明けから立秋までの盛夏
になります。梅雨が好きだという人は少ないでしょうが、梅雨前線
がもたらす豊富な雨が日本列島の緑を支えているのは事実なのです。

蒸し暑さはかないませんが、雨の音を聞きながらひとり部屋で過ごす
のは悪くないものです。読みたいと思いながらなかなか読めずにいた
本を開いたり、思い立って部屋の整頓を始めてみたり。晴れていると
外へ向かってしまう気持ちを内に向かわせるのに雨ほど適している
ものはないのかもしれません。

□◆□…優嵐歳時記(106)…□◆□

    アイリスよその空の色海の色  優嵐

アイリスはアヤメ科の園芸種で、特に外国産のダッチアイリス、
イングリッシュアイリス、ジャーマンアイリスなどを指します。
高さは60cm〜90cmほどで、花の色は白・黄・藍・紫などがあり、
花弁の中央に黄色の斑があります。

アイリスとはギリシャ神話の虹の女神の名前に由来し、虹のように
多彩な色で咲くという意味があります。アイリスは、アヤメ科の花で
あるハナショウブ、アヤメ、イチハツ、カキツバタなどの総称でも
あります。

□◆□…優嵐歳時記(105)…□◆□

    青空の音を奏でし釣鐘草  優嵐

ツリガネソウはキキョウ科で、学名をカンパニュラ(小さな鐘)
といいます。職場のすぐ前に花を育てるのが大好きなお宅があり、
いつも畑が花でいっぱいです。季節の花がいくつも咲いており、
行き帰りに花を楽しませていただいています。

先日、釣鐘草に気がつきました。本当に名前のとおりの花の形です。
色はいろいろあるようようですが、私がこの日見たのは澄んだ
空の色をそのまま持ってきたような青いツリガネソウでした。

□◆□…優嵐歳時記(104)…□◆□

    着実に歩めよゆきのした白し  優嵐

「鴨足草」と書いて(ゆきのした)と読みます。この字はその花弁の
形から来たものでしょう。五枚の花弁の上三枚は小さく、下二枚が
大きく少し長さが違います。これが鴨の足を思わせるのです。梅雨
どきは同じユキノシタ科のアジサイが主役ですが、やや湿った庭先や
石垣の陰などに目を移すと、ユキノシタが白い花を咲かせています。

地味な脇役ですが、近づいて見るとなかなか可愛らしい花です。
私の住むアパートの前の庭にもいまユキノシタが咲いています。俳句
を始めるまでは咲いていることさえ気づきませんでした。今は、こう
いう素朴な美しさもいいものだと思います。

□◆□…優嵐歳時記(103)…□◆□

    紫陽花の七色備前の壷に活け   優嵐

六月の花の代表といえばアジサイでしょう。晴れよりも雨天の方が
映えて見える花です。アジサイはユキノシタ科、日本原産で、野生の
ガクアジサイの園芸種です。花弁に見えるのは四枚のがく片です。
花が開いてから順に色が変化するところから七変化とも呼ばれます。

花の色はピンクから青まであり、植えられている土壌の酸性度に
よって変わります。酸性だと青、アルカリ性だとピンクになると
いいますから、リトマス試験紙とは逆ですね。子どものころ私の
家の庭にはピンクのアジサイが咲いていました。

挿し木で容易に増やせます。幕末に長崎に滞在していたシーボルトが
好きだった花で、恋人の”お滝さん”にちなみ「オタクサ」と命名した
という逸話が残っています。

□◆□…優嵐歳時記(102)…□◆□

    輝ける青き空より六月来る   優嵐

昨日の姫路は雨上がりの清々しい青空が広がり、風の心地よい
素晴らしいお天気でした。人生の幸せな一日というのを思い描い
たら、きっとこんな一日になるのではないだろうか、と思い
ました。風が爽やかに青葉を吹きすぎていきます。湿気が低く
何かヨーロッパの夏を思わせました。

職場の周囲は田植えの真っ最中です。あぜには早苗が並べられ、
空を映す田の中に田植え機がまっすぐに苗を植えていきます。
昔は一家総出でした田植えも、今では多くの家で営農組合に
委託したものになっています。

陽暦では、六月はすでに夏の半ば、仲夏の時候になります。野山
の緑は濃くなり、制服も夏服へと変わって、自然も社会の風景も
本格的な夏になります。半ばまでには本州全域は梅雨に入り、
蒸し暑さが徐々に増してきます。

□◆□…優嵐歳時記(101)…□◆□
    
   つややかに玉葱軒に吊るされて   優嵐

タマネギは中央アジア原産のユリ科の二年草です。古代エジプト
でも栽培されていたということがわかっており、最も歴史の古い
野菜のひとつです。日本にやってきたのは意外に遅く、明治元年
(1868年)です。肉食が庶民の間にも普及するにつれてごく普通
の野菜になりました。夏の収穫が最も多く、夏の季語になって
います。

収穫された玉葱が風通しのよい軒下などに吊るされているのを、
あちこちで見かけるようになりました。こうしておけば長期の
保存にも耐えます。収穫されてまだ日の浅い玉葱はつやつやとして
います。煮ても炒めても、生でも食べられ、料理のバリエーション
が広い野菜です。

□◆□…優嵐歳時記(100)…□◆□

    沸き立ちて激しき雨の五月尽   優嵐

姫路は午前10時ごろから雨になり、お昼前後はまるでスコールの
ように激しく降りました。九州や四国はすでに梅雨入りしている
そうですが、近畿地方の梅雨入りも近いでしょう。例年であれば
6月10日の入梅前後にまさに梅雨入りするのですが、今年は
かなり早い梅雨入りになりそうです。

五月最後の日、および五月の終わることを「五月尽」といいます。
五月は新緑の美しい季節であり、一年でも最も過ごしやすい時期に
あたります。ゴールデンウイークもあり、野山に出かけやすいころ
でしょう。もっとも、今年の五月は雨が多く、風薫ると形容される
ような日は少なかった気がしますが。

五月尽とは、すなわち快適な季節が過ぎ去って梅雨が近いことを
現し、やがてその先の猛暑をも見越した季語と言えそうです。


□◆□…優嵐歳時記(99)…□◆□

    風薫る葉擦れの音と書を読みぬ   優嵐

「風薫る」とは、青葉を吹く風が緑の香を運ぶと見立て、爽やかな
初夏の南風をさしています。風薫る五月、などと言ったりもします。
今日は、芦屋市にある旧山邑家住宅(ヨドコウ迎賓館)へ行って
きました。ここは20世紀最高の建築家と言われるフランク・ロイド・
ライトが設計した住宅で、アメリカ国外に現存する唯一の建物です。

阪急芦屋川駅を降りて、坂を上っていくと、特徴的な車寄せの前に
来ます。ここまで来ると目の前に芦屋の町並みとその向こうの海が
一望できます。あまり知られていないのか、日曜にもかかわらず、
来所者はほとんどなく、じっくり見学することができました。

二階の応接室にはライトのコンセプトを生かして新たに作られた机
と椅子があり、そこでしばらく本を読みました。南の窓は開け放たれ
そこから爽やかな風が吹き込んできます。窓のすぐ側には大きな楠
があり、その葉が風にゆれてさやさやと心地よい音をたてていました。

この居心地のよさは何なんでしょう。いくらでもそこにいて静かに
時を過ごしていたい、そんな気持ちになりました。

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