優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

小春
同じSpotifyの公開プレイリストにcocomiが出てきました。キムタクのお嬢さんのフルート奏者です。野口五郎のお嬢さんもピアニストで佐藤文音。二人とも音楽的才能と美貌を受け継ぎ、天は何物も与えた感じです。

クラシック界で活躍されるのはいいことなのかもしれません。同じ土俵にあがると、得することもあるでしょうが、重荷になる場合もあります。親が大スターでそれに匹敵する実績をあげたという人は稀です。
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木守柿
Spotifyの公開プレイリストにハイドンが出てきました。ハイドンはモーツァルト、ベートーヴェンとともに古典派の三大巨匠といわれています。しかし、あとのふたりと比べて日本ではそれほど親しまれてはいません。

モーツァルトもベートーヴェンも私は好きです。古典派の特徴は美しく親しみやすい旋律と様式美です。古典派の残るひとりであるハイドンをもっと聴いてみてもいいのではないか、
と思いました。

ハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」:第2楽章「神よ、皇帝フランツを守りたまえ」は現在のドイツ国歌です。ハイドンは77歳まで生きました。35歳で亡くなったモーツァルトの倍以上です。作品数も膨大で、交響曲の父と呼ばれています。
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40代を超えて10代のころと同様の声を出せというのは無理です。ゆえにファルセットなのですが、地声も若いころとは異なり細くなっているのがわかります。『ロマンス』『ファンタジー』は、やはり10代のために作られた歌です。

復帰後の岩崎宏美の歌で、素晴らしいと思ったのは、『人生の贈り物〜他に望むものはない』(当時53歳)です。これはこの年齢でなければ歌えない歌です。10代や20代では説得力がありません。この歌詞のようなことに気づけるのはもっと後です。

光陰矢の如しとか、少年老い易く学成りがたし、などという古典を中学や高校で習いました。しかし、そのときは何のことかわかりませんでした。意味はわかっても実感としてはわかりません。人生も若さも永遠に続く、そんな錯覚に陥っているのです。
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枯薄
岩崎宏美の全盛期は10代後半から20代半ばだと思います。『ロマンス』(当時17歳)から『家路』(当時24歳)あたりです。この間、『思秋期』(当時18歳)が転機となった作品で、代表曲『聖母たちのララバイ』(当時23歳)が挟まっています。

その後、彼女は88年(当時29歳)の結婚でいったん休養に入り、本格的に復帰するのは95年(当時36歳)です。復帰後の歌を聴くと、彼女の最大の魅力であった高音をそのまま出すのはさすがに難しくなっており、ファルセットを用いています。

それからさらに30年、65歳の現在も現役を続けるには、並々ならぬ努力と精進が必要です。歌への情熱がなくては続けられないと同時に、心身の健康状態がそれを可能にしているのは彼女の幸運といえるでしょう。
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桜冬芽
能天気とすら思われかねない天地真理の歌と、深刻にドラマティックに歌い上げる岩崎宏美の歌を比べたとき、『ゲド戦記』の翻訳者清水真砂子さんが児童文学と大人の小説の違いについて述べたエッセイを思い出しました。

彼女は子どもの頃、大人の小説を読んで「なんで不幸と恋愛ばかり書いているのだろう」と不思議に思っていたとか。私も同じような感想を抱いていました。にもかかわらず、大人の小説は児童文学より高尚なものとして扱われます。本当にそうなのでしょうか?

清水さんは児童文学の魅力について、「この世界は生きるに値する」そのことを繰り返し子どもたちに語るものである、と書いていました。児童文学は向日性に満ち、明日への希望を描きます。天地真理の全盛期の歌の世界もそれと同じです。
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冬紅葉
岩崎宏美の20代における声は「火曜サスペンス劇場主題歌」のような劇的で深刻な表現に適していました。ドラマティックに歌い上げ、人生の苦悩と葛藤を歌います。「歌がうまい」と誰でもわかりやすく、大人の表現だと誰もが感じるでしょう。

天地真理の声は違います。彼女が岩崎宏美を歌うかどうかは別問題として、そもそも声質がそういう深刻で劇的な表現にむいていません。同じように、20代の岩崎宏美が天地真理を歌っても、天地真理のような優しく広々と包み込むような歌にはならないと思います。

歌手の根本的な生命は声の質でしょう。一発で心をもっていかれるのは、そのときの自分の心の琴線にふれる声に出会ったときです。
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冬空
天地真理は20歳になる直前にデビューし、一貫して明るい天地真理の世界を歌い続けました。この間シングル11枚が連続してオリコン10位以内、うち5位以内10曲、1位5曲です。また、アルバムセールスも6枚連続3位以内、うち1位が4枚という実績を残しています。

しかし、9thアルバムからは歌う世界が変わってきます。この時期の彼女の歌が好きだという人もいますが、私は文句なしに全盛期の歌の方が好きです。アルバムの全曲が好きだといってもいいほど素晴らしい。

彼女の歌声のもつ優しさ、軽やかさ、暖かい包容力を活かす楽曲が提供され、それぞれのアルバムが珠玉の作品になっています。どこまでも爽やかで伸びやかで明るい。だから半世紀を経ていても瑞々しく響いてきます。
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落葉
岩崎宏美の10代のころの歌声、歌自身の世界観は好きです。私にとっての彼女の最高傑作は4thアルバム『ウイズ・ベスト・フレンズ』(当時18歳)です。このなかの『学生街の四季』は作詞の阿久悠も大変気に入っていたようです。

アルバム最後の『さよならそして自由へ』も好きです。いずれも切なさや悲しさを持ちながら爽やかな明るさがあり、彼女の若くまっすぐな声にぴったりです。しかし、これは次の5thアルバムから変わります。

大人っぽさを意識したのか、こうした明るさ、爽やかさが影を潜め、酒や煙草に象徴される世界が歌詞に登場してきます。10代時代の二大代表曲のひとつ『思秋期』も収録されていますが、私はこの歌がそれほど好きではありません。
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聖樹
全盛期の天地真理の歌は、YouTubeでも1stアルバムから8thアルバムまで聴くことができます。歌の内容も明るいですし、フルファルセットで歌う独特の歌声が、すべての曲に彼女にしか出しえない明るさを与えています。

全盛期の彼女は輝く瞳と白い歯の明るい笑顔が魅力的です。ただ、歌だけを聴いていても、まるで声自身が微笑んでいるかのようです。なぜそのように聴こえるのか不思議なのですが。そのため、失恋の歌さえ痛みよりも明日への希望を感じます。

デビュー曲の『水色の恋』(当時19歳)は別れの歌です。淡い初恋、手を触れることすらかなわなかったような恋を歌っています。さよならさえ言わなかった、けれど心のどこかにその思いを持ち続け明日へ歩み出す、そういう歌になっています。
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クリスマス
最近ずっと天地真理を聴いています。そして自分の好みは「明るい」音楽なのだ、と気づきました。昔から演歌は好きではありません。同時にJ-POP領域でもそうなのです。

天地真理に気づく以前は岩崎宏美に気づいて聴いた時期がありました。ただ、彼女の歌で好きなのは10代のころのものに集中しています。20代では、『聖母たちのララバイ』(当時23歳)など一連の「火曜サスペンス劇場主題歌」が代表曲でしょう。

でも、これらの歌は私の好みにはあいません。演歌に近い世界観だからです。未練、すがる、待つ、耐える…、深刻に不倫や裏切り、夜の世界を歌っています。歌でそういうものを聴きたくはない。それが「大人の歌」だというなら私は子どもでいいかな、と。
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