□◆□…優嵐歳時記(1857)…□◆□ 

  空梅雨の夕焼け長く空にあり   優嵐

夜に入って雨が降り出したようです。昼間は曇っていたもののなかなか雨が落ちてきませんでした。日中はリクライニングチェアで井上靖の『化石』という小説を読んでいました。井上靖は好きな作家のひとりでかなり読んでいますが、これは初めて読む作品でした。

昭和40年ごろに新聞に連載されていた小説で、今読むと登場人物の年齢を10歳くらいあげて適当か、と思います。主人公の娘(20歳そこそこ)やマルセラン夫人(30歳前後?)にしても、今、同じ年齢の人はここまで大人じゃないよなと感じます。それだけ現代人は精神年齢が幼くなっているのかもしれません。

主人公の50代半ばの実業家は、ヨーロッパの旅行先で自分が不治の病に冒されていることを偶然知ってしまいます。その後の男の煩悶を描いて400ページ以上ある小説を読ませます。男は自分の「死」を同伴者にしてあらゆる場面でそれと語り合うのです。

実際には、誰もが「死」を同伴者として毎日を生きています。本人が意識していないだけのことです。不治の病を宣告されたりすると、初めて影にいた「死」がスポットライトを浴びます。主人公はそれによってようやく自分の来し方、行く末を思うのですが、本来は誰もがこのことをもっと考えておかなければならないのでしょう。

<夏帽子>
んでもないこと
まらないとおもえたこと
んとうに
つくしいことは
ばしばこのなかにある

090621