□◆□…優嵐歳時記(2134)…□◆□

  あの人やこの人のこと涅槃西風   優嵐

涅槃会の陰暦二月十五日は釈迦入滅の日です。その前後一週間ほどに吹く西風のことを「涅槃西風(ねはんにし)」と言います。西方浄土からの風とも言われ、まだ少し寒さの残るお彼岸の頃の西風です。同じ頃の西風に「彼岸西風(ひがんにし)」という季語もあります。

以前の仕事では、高齢者の方の家庭をお訪ねすることがよくありました。そのとき90歳近い男性が「もうなあ、この年になるとこの世よりあの世の方が知り合いが多なりましたわ」とおっしゃったのが印象に残っています。そうか、年齢を重ねるとはそういうことなのだ、と妙に胸にすとんと落ちてきたのです。

私が学生時代やそれ以後に知り合った友人のほとんどは存命です。それでも何人かはすでにこの世を去っていて、その人たちのことを思い出すことがあります。自分に生死のことを最初に考えさせてくれ、最も強い影響を与えたのは高校三年生の冬に自殺した幼なじみでした。

もし、あの子がああいう形で死ななかったら、自分は生死の問題についてもっと違う感覚を持っていたかもしれないと思います。生死の問題に正しい答えというのはありません。それでも考えることに意味があるのだと今は思っています。


<砂漠にて>
背の高い男性と並んで崖の淵にいた
彼の波打つ栗色の髪は長く
顔はほぼ頭一つ分上にある

私たちの目の前には砂漠が広がっている
正確にはかつて街があった砂漠と
言うべきだろうか

ここに大勢の人が暮らす街があった
私たちがかつてここで住んだのか
それはわからない

乾いた風が吹いてくる
彼の身体も横顔も引き締まって
すべての不要物を削ぎ落とした
細い鞭のようだ

彼は何も言わない
けれど
拒絶されている感じはない

彼はこれから何かを示してくれる
それが何か
風の音を聞きながら私は待っている


今日の名言:君が立っている所を深く掘れ。そこからきっと泉が湧き出る。


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