□◆□…優嵐歳時記(2157)…□◆□

   暁を覚えてしばし春睡に  優嵐

孟浩然の詩「春眠暁を覚えず、処々に啼鳥を聞く、夜来風雨の声、花落つること知んぬ多少ぞ」の起句に由来した季語が「春眠」です。「春睡」とも詠まれます。朝方目覚めてそれから再びちょっと眠る、それがまたいいものです。

その間に夢を見ていました。久しぶりに自分とは別の人になった夢だったので新鮮でした。私はヴェネツィアかどこかの商人のようです。長い交易の旅から戻り、今わが家へ向かっています。交易はうまくいき、何もかも首尾よく終わりました。私は海からの風を背に受けて妻の待つ家に向かっているのです。

中村草田男に「妻抱かな春昼の砂踏みて帰る」という句があります。夢の中の私はちょうどそんな思いを胸にわくわくしていたような気がします。誰の言葉だったか忘れましたが「この世で恐ろしいことが二つある。夢がかなわないことと夢がかなってしまうことだ」というのがあります。

人間が一番幸せだと感じるのは、何か素晴らしいことを予見し期待に満ちてその訪れを待っているとき、ではないかと思います。「恋の醍醐味は片思いにあるのですよ」と高校時代の古文の先生が授業中におっしゃいました。

人間が最も幸福を感じられるのは実体験よりもイメージの中であり、体験であればほんの一刹那、あるいは、時間を超越した<ゾーン>や<三昧>の領域においてです。実際に何かが実現してしまったら、あとはそこからそのことに関しては落ちていくだけです。恋が実現してしまったら、その先は恋から醒めるしかありません。

金メダルをとろうが、億万長者になろうがそれは同じことでしょう。実現してしまったら、それはもう現実であり、過去です。退屈や重荷と同義語になってしまうのかもしれません。だから恋だろうがなんだろうが、新鮮なものにしておきたいと思ったら、常に刷新し成長を促し何かへと変容させていく工夫をしなければいけません。

「留まることは死ぬこと」というのは、過酷な競争社会を表す言葉のようですが、実はこの世のすべてにあてはまるのだと思います。無常とはそういうことであり、すべてはうつろうのであり、それを<そのまま>にとどめようとしたり、安住しようとすると、そこにある<何か>が死んでしまうのです。


<願い事>
ただひとつ願いがかなうなら
ずっと成長を続けたい

成長とは
新しいことを学び
恐れずに変わっていくこと

執着せずに手放して
新しいものを受け入れること


今日の名言:あなた自身を好きになったほうがいい。長く付き合うんだから。


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