□◆□…優嵐歳時記(2167)…□◆□ 

  木の芽山あまりに明るき真昼なり   優嵐

ゴールデンウィークが近くなりようやくお天気が安定してきました。晴天になると周りの山々の緑がどきどきするほどのまぶしさです。新緑という季語を用いてもよさそうなものですが、新緑は初夏の季語です。「木の芽」を入れた季語がいくつもありますから、それで詠んでみたいと思います。

坂井泉水さんの月命日、今日とりあげるのはZARDの3枚目のオリジナルアルバム『HOLD ME』(92.9.2)に収録されている『遠い日のNostalgia』です。ピアノの調べが印象的な清涼感のある佳曲です。

遠い日のNostalgia 



ところで、この歌の主人公は男性でしょうか、女性でしょうか? よく聴いてみても明確にわかるような言葉を坂井泉水さんは使っていません。歌詞の中で一人称代名詞は使われておらず---<僕>か<私>が登場すれば主人公の性別は決定します---、二人称代名詞は<君>です。<君>は歌詞の場合、男女どちらが使っても不自然ではありません。一方、<あなた>はどちらかというと女性的、<お前>は明確に男性を示唆します。

さらに「ごめんね内緒であの子と出かけたこと」というフレーズは絶妙です。ここで三人称代名詞に<あの子>を使い、<彼>とも<彼女>とも言っていないところが実にうまい。坂井泉水さんは、この楽曲においては、意識的に主人公の性別をあいまいにしていると感じます。そういうことができる日本語の特性を知り、それを歌で活かすことを試みていると思うのです。

英語で会話をすると、話題になっている人の性別がすぐにわかってしまいます。heかsheを使わなければならないからです。しかし、日本語の場合性別を明らかにせずに会話を続けることができます。<あの子>という代名詞はその典型であり、さらに男女どちらがどちらに対して使っても不自然ではありません。

歌詞全体はやや男性的傾向の言葉の並びですが、歌っているのが坂井泉水さんという女性ボーカリストであり、その声質がその傾向を和らげてニュートラルなところに引き寄せています。主人公が女性と考えた場合と男性と考えた場合で広がる世界が微妙に違います。

聴き手によってどのようにでも場面を思い描くことができるのが、この楽曲の隠れた魅力ではないでしょうか。さらにそれが可能なのは、クロスジェンダー・パフォーマンスの壁が無い日本語を母語とする聴き手だけでしょう。


今日の名言:与えてください。あなたの心が痛むほどに。