□◆□…優嵐歳時記(2350)…□◆□

  秋しぐれ去りその雲を見ておりぬ   優嵐

お昼前に時雨がありました。時雨は冬の季語で、晩秋の場合は「秋時雨」と詠みます。この雨のあと一段気温が下がり、空はすぐに晴れましたが、肌に当たる空気が冷たく、はっきりと冬が近いという感覚がありました。

坂井泉水さんの月命日、今日はZARDの37番目のシングル『もっと近くで君の横顔見ていたい』 (03.11.17)を取り上げます。この曲は月桂冠「月」のCMソングとして使われ、季節的には今の時期にぴったりです。

もっと近くで君の横顔見ていたい



歌詞にも「月を浮かべて夜を語り明かそうよ」と月が登場します。今日は旧暦九月二十日、今夜の月は更待月(ふけまちづき)といわれる時間帯の月で、月の出は午後八時ごろです。月を浮かべて夜を語り明かすにはぴったりかもしれません。朝まで月は空にいますから。三日月では、夜らしい夜にならないうちに沈んでしまいます。

ここで歌われる二人の関係がどのようなものなのか、いろいろ想像できます。かつての恋人同士なのか、それとも…。聴く人が思い思いに物語を構築できる広がりのある歌詞だと思います。坂井泉水さんの声は、この曲のようにほのかな切なさが漂う歌によくあいます。また、この声質で歌われるから励まし系の歌詞が逆に生きてくる感じがします。

この楽曲の中にも「淋しさで人は愛に苛立ちをおぼえてゆく でも人は淋しさで強くなってゆくよね」というフレーズがあります。人間の淋しさをめぐる心理をわずかこれだけの言葉で語っているところが、凄いと驚きます。通常、なかなか言葉にならない心のひだの部分をさらりと歌詞にしているのです。淋しさで強くなる…、これもある意味では励ましですね。

さらにいつも思うのですが、彼女は季節感を取り入れるのが実にうまい。この歌の背景は晩秋、欠けていく月の感覚を入れつつ冬へと向かう凋落、侘び、寂び…、そして最後に「華やいだ季節は そう遠い記憶」としめくくっています。春や夏の歌なら決して使わないだろう言葉をここにもってきているのです。晩秋だからこそ、「華やいだ季節」が象徴するものとの対比が生きます。