プール
「行水」という季語があります。盥に湯を入れてその中で身体の汗などを洗い流すことです。昔は井戸水や川の水を汲んで薪を焚いて湯を沸かしていたため、毎日入浴することはできませんでした。各家庭に給湯設備が整い、スイッチをひねるといつでもお湯が出てくるという生活があたりまえになったのは、せいぜい1970年以後のことではないか、と思います。

東京オリンピックが開かれたのが1964年。そこに向かって日本が高度経済成長の階段を駆け上がり始めたのが1960年前後です。その後、日本人の生活は劇的に変わったのです。1950年代の生活は1970年代よりも、1930年代に近いと言われます。歳時記を見ても、農作業や生活に関する季語ではもはやぴんとこないものがたくさんあります。

この句の場合も、一種の行水のようなものと考えられますが、「行水」がもはや生活の中から姿を消しているとあっては、句に詠むのも難しいと思いました。幼い姉妹がビニール製のプールで歓声をあげていました。頭上にはパラソルがさしかけてあり、紫外線対策も怠りないのは、イマドキです。

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