優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年05月

□◆□…優嵐歳時記(100)…□◆□

    沸き立ちて激しき雨の五月尽   優嵐

姫路は午前10時ごろから雨になり、お昼前後はまるでスコールの
ように激しく降りました。九州や四国はすでに梅雨入りしている
そうですが、近畿地方の梅雨入りも近いでしょう。例年であれば
6月10日の入梅前後にまさに梅雨入りするのですが、今年は
かなり早い梅雨入りになりそうです。

五月最後の日、および五月の終わることを「五月尽」といいます。
五月は新緑の美しい季節であり、一年でも最も過ごしやすい時期に
あたります。ゴールデンウイークもあり、野山に出かけやすいころ
でしょう。もっとも、今年の五月は雨が多く、風薫ると形容される
ような日は少なかった気がしますが。

五月尽とは、すなわち快適な季節が過ぎ去って梅雨が近いことを
現し、やがてその先の猛暑をも見越した季語と言えそうです。


□◆□…優嵐歳時記(99)…□◆□

    風薫る葉擦れの音と書を読みぬ   優嵐

「風薫る」とは、青葉を吹く風が緑の香を運ぶと見立て、爽やかな
初夏の南風をさしています。風薫る五月、などと言ったりもします。
今日は、芦屋市にある旧山邑家住宅(ヨドコウ迎賓館)へ行って
きました。ここは20世紀最高の建築家と言われるフランク・ロイド・
ライトが設計した住宅で、アメリカ国外に現存する唯一の建物です。

阪急芦屋川駅を降りて、坂を上っていくと、特徴的な車寄せの前に
来ます。ここまで来ると目の前に芦屋の町並みとその向こうの海が
一望できます。あまり知られていないのか、日曜にもかかわらず、
来所者はほとんどなく、じっくり見学することができました。

二階の応接室にはライトのコンセプトを生かして新たに作られた机
と椅子があり、そこでしばらく本を読みました。南の窓は開け放たれ
そこから爽やかな風が吹き込んできます。窓のすぐ側には大きな楠
があり、その葉が風にゆれてさやさやと心地よい音をたてていました。

この居心地のよさは何なんでしょう。いくらでもそこにいて静かに
時を過ごしていたい、そんな気持ちになりました。

□◆□…優嵐歳時記(98)…□◆□

    蝙蝠が飛んで七時の薄明かり   優嵐

「蝙蝠(こうもり)」は、指の間に翼に似た膜があり、鳥のように
飛ぶことができる珍しい哺乳類です。冬は洞窟や木の洞、屋根裏
などにじっとひそんでいますが、夏になると、夕暮れ時から出没し
昆虫を食べます。そのため「蚊食鳥」との別名もあります。

西洋では、魔女や吸血鬼のイメージと結びついて忌み嫌われて
いますが、中国では、「蝠」が「福」に通じるとして喜ばれると
いいます。漢字文化ならではのイメージの連鎖でしょうか。

先日ナイターでテニスをしました。午後7時を過ぎてもまだ空には
明るさが残っています。ナイター照明がしだいに明るさを増して
くる中、小さな影がぱたぱたっとコートの上を横切ります。コウモリ
です。照明に誘われて集まる虫を食べにやってきたのでしょう。

□◆□…優嵐歳時記(97)…□◆□

   麦秋や陽は高からず低からず   優嵐

「麦秋」とは麦の取り入れどきである初夏のころを指します。
「ばくしゅう」とも「むぎあき」とも詠むことができます。
「秋」はこの場合、成熟の時、取り入れ時を意味し、稲の取り入れ
時を「こめあき」ともいいます。

田植えの準備が進むかたわらで麦の穂が金色に熟しています。
稲穂のように頭を垂れることはありませんが、側へ寄って見ると、
麦の穂の充実ぶりがわかります。5月の青空と熟れた麦の穂を
揺らす風、いいものです。

□◆□…優嵐歳時記(96)…□◆□

   早苗田にふるさとの空映りけり   優嵐

私の職場のまわりでは田植えの準備が最盛期を迎えようとして
います。その一方、すでに植えられた早稲の田は少しずつ苗が
育っています。 「早苗田」は「植田」と同義語です。その
時の句の雰囲気によって言葉を変えて用います。

植田も早苗田も、そこにはられた田水のさまが魅力です。田植え
が終わったばかりの田、苗が根付いて少し育った田、それぞれに
少しずつ風情が変わり、やがて田水がかくれるほどに苗が育つと、
いつの間にか盛夏を迎えています。

□◆□…優嵐歳時記(95)…□◆□

   若楓彼方に三川合流す   優嵐

この土曜日に京都府大山崎町にある大山崎山荘美術館へ行って
きました。ここは大正時代に関西の実業家、加賀正太郎が、
留学したイギリスのテムズ川の眺めをもとに設計した英国風の
山荘です。平成8年、アサヒビールが地元の要請にこたえて
山荘を修復し、美術館としてオープンしました。

二階のバルコニーからの眺めが素晴らしく、さすが山荘、と思い
ました。ここに詠んでいる三川(さんせん)は、桂川、宇治川、
木津川のことです。この地で合流し淀川になります。ビールを
飲みながら楓の若葉や蓮の花を楽しみました。

楓はカエデ科の落葉高木。秋の紅葉はもちろんのこと、若葉の
時期の明るい美しさも格別で、「若楓」の季語となっています。
吉田兼好は『徒然草』で「卯月ばかりの若楓、すべてよろづの
花紅葉にもまさりて、めでたきものなり」と称えています。

□◆□…優嵐歳時記(94)…□◆□

   白シャツの襟にアイロン海芋咲く   優嵐

「海芋(かいう)」別名カラー、オランダカイウともいいます。
アフリカ喜望峰の原産で、日本には天保14年(1843年)オランダ船
によってもたらされました。5月から6月ごろ、大きな純白の
仏炎苞に包まれた棒状の両性花をつけます。仏像の光背のような
見事な苞を仏炎苞といい、ミズバショウを始め、サトイモ科には
美しい仏炎苞を持つものが多くあります。サトイモに似た根茎を
持ち、水を好むことから海芋と名づけられたようです。

園芸用や切花用として広く栽培され、緑色の花と真っ白な苞との
対比が鮮やかで、一度見たら忘れられない花です。なにかその姿
を見ると、白いシャツの襟をたてて風に吹かれている美しい女性
を思い浮かべてしまいます。

□◆□…優嵐歳時記(93)…□◆□

   待ちかねて雨上がりへと鯉のぼり   優嵐

この二週間は雨続きの姫路でしたが、昨日からようやく晴れ間が戻り、
さっそく鯉のぼりが泳いでいます。鯉のぼりは江戸時代に始まった
風習で、出世魚と呼ばれる鯉をかたどって高くかかげ、男子出生を
祝うものです。

姫路周辺では鯉のぼりしかかかげませんが、地域によってはその横に
幟を立てるところもあるようです。九州では生まれた男の子の名前に
定紋を入れ、武者絵を色鮮やかに描いた幟を見ました。確か、四国や
信州でも幟を立てていたと思います。

都会ではこのような大きな鯉のぼりは見られなくなりましたが、
田舎では、水の入った田を背景に、風をはらんで若葉の上を泳ぐ
鯉のぼりの姿は、まだまだおなじみの風景です。

□◆□…優嵐歳時記(92)…□◆□

   植えられし田に漣の立ちにけり   優嵐

コシヒカリなど早稲の田はすでに田植えが終わっています。姫路
周辺では早稲の田は比較的少ないので、田植えの本格的なシーズン
は六月に入ってからになります。「植田」とは、田植えが終わった
ばかりの田のことです。田水がいっぱいに張られ、そこに周囲の
景色が映ります。

日が長くなり、いつまでも明るさを残す空の色が張られた田の水に
映る景色は、私の大好きなもののひとつです。まるで周囲が一時的に
すべて湖にでもなったような気持ちになります。植えられたばかりで、
なんともたよりなげにひよひよと水の上に顔を出している苗の風情も
いいものです。

□◆□…優嵐歳時記(91)…□◆□

   雨上がる小満の陽の地に満ちて   優嵐

二日半降り続いた雨があがり、久しぶりに青空が広がった姫路
でした。今日は二十四節気のひとつ「小満」です。立夏の15日
後にあたり、太陽の黄系が60度に達します。小満とは、「陽気
盛んにして万物長じ、草木が茂って天地に満ち始める」という意味
です。久しぶりにのぞいた日差しは明るく、雨に洗われた緑は生き
生きと濃さを増しています。

早稲の田では、すでに田植えが終わる一方、麦畑では、麦が濃く
熟れてきています。暑くもなく寒くもなく、風は心地よく夕暮れの
時間はいっそう遅くなって、一年中でも最も過ごしやすいころです。

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