優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年06月

□◆□…優嵐歳時記(130)…□◆□

    万緑や時いずこより流れ来る    優嵐

「万緑」は濃淡様々であった緑が、すっかり濃い緑になり、強い夏の
日差しの下で輝いて見えるさまをいいます。6月も今日で終わり、
2004年がこれで半分過ぎ去ったことになります。年々一年が過ぎて
いく速さに加速度がついていく気がしてなりません。子どものころは
あれほど時間がたっぷりあるように思っていたのに、今では走り去る
時間を必死で追いかけている始末です。

時間は相対的なものだと誰かが言っていました。7歳の子にとっての
1年は人生の7分の1だが、70歳の人にとっての1年は70分の1に
すぎない、と。流れ去るのは時間だとばかり思っていましたが、今
では流れ去っているのは我が身の方だということが、実感されるように
なりました。


□◆□…優嵐歳時記(129)…□◆□

    短夜や昔の歌が口をつく    優嵐

「短夜(みじかよ)」は「明易し」とほぼ同じ意味の季語です。句の
調子や語感で、用いる言葉を変えていきます。先日、目が覚めた
とたん、ずっと以前、子どものころに聞いたテレビの挿入歌が口を
ついて出てきました。そんなに大流行したわけでもなく、この歌の
存在さえ忘れていたのにワンフレーズ歌えてしまいました。

人間の記憶の仕組みがどうなっているのか詳しくは知りませんが、
恐らく一度経験したことは人間もコンピュータのように脳のどこかに
すべてしっかり格納しているのではないでしょうか。忘れたと思う
のは、それを再生するすべがわからないというだけなのでしょう。

この朝、私はこの歌が出てくる夢を見ていたのではないかと思います。
夢というのも随分不思議な働きをするものですが、なんだかよくわから
ないだけに面白いですね。あの朝からいまだにその歌が自分の頭の中
でずっと鳴っています。

□◆□…優嵐歳時記(128)…□◆□

    夜の耳すませば遠き梅雨の雷    優嵐

昨夜は夜半にかなり強い雨が降りました。遠くで雷の音もしていま
した。雷が鳴ると梅雨明けも近いといわれていますが、さすがに
梅雨明けはまだでしょう。あと二週間くらいはこの梅雨空が続き、
一度くらいは梅雨末期の豪雨が日本列島を襲うでしょう。

日本列島は世界的に見ても雨の多い国です。インドや東南アジアなど
他の多雨地帯は雨季と乾季がはっきり分かれていますが、日本は四季
を通じて雨が降ります。日本の山はよほどの高山意外は緑に覆われて
いますが、これはこの豊富な雨量がもたらした緑です。

海外旅行をして、特に雨量の少ない国に行くと、何日か滞在している
うちに緑を渇望している心に気づきます。日本文化の基本にこの雨量
が入っているということが実感できます。私たちは雨の国の人なのです

□◆□…優嵐歳時記(127)…□◆□

    扇風機まわる雨音高くなり    優嵐

金曜日の夕方から降り始めた雨が日曜のお昼ごろまで残り、梅雨
らしいお天気の姫路でした。「扇風機」はかつて夏の花形でしたが、
今では各家庭にエアコンが行き渡り、脇役的な存在でしょう。
しかし、私はエアコンを持っていませんので、この夏も扇風機のみ
で乗り切ります。冷房は職場だけで十分です。

子どものころ、扇風機相手に遊んだものでした。回っている羽根に
向かって「わー」なんて声を出すと声が反射されてきます。指を
突っ込んで羽根を止めておいてからスイッチを押し、しばらく自分
の力で羽根を固定した後、離して回りだすのを見て楽しんだり。
子どもって(そのときは自分が子どもなのですが)よくこんなつま
らないことで遊べるものだと思うほど、なんでもないことを飽きも
せず楽しんでやっていたものでした。

□◆□…優嵐歳時記(126)…□◆□

    百合咲くや白き光をひたすらに    優嵐

ユリの仲間は北半球に約70種、日本には13種ほどが自生して
います。『古事記』の時代からすでに「山由里草」との記述が
あり、『万葉集』にも大伴坂上郎女の「夏の野の繁みに咲ける
姫百合の知らえぬ恋は苦しきものを」などユリを題材にした歌が
あります。

ユリという名は花が大きく風が吹けばよく揺れることからついた
といわれています。野生種にもヤマユリ、ササユリ、オニユリ、
スカシユリ、コオニユリ、カノコユリ、テッポウユリ、ヒメユリ
など多くの種類があり、それぞれに独特の趣があります。

ここで詠んでいるのは園芸種のカサブランカです。純白の大輪の花
を咲かせます。

□◆□…優嵐歳時記(125)…□◆□

    気持ちよく泳ぐ夢見て明易し    優嵐

私は比較的よく夢を見る方かも知れません。人間は毎夜夢を見て
いるといいますから、正確には「夢をよく憶えている」という
べきでしょうか。一時期、集中的に水や泳ぐ夢を見たことがあり
ました。しばらく途絶えていたのですが、最近とてもゆったり
泳ぐ夢を見ました。リラックスして、(眠っていてリラックス
するというのも可笑しいですが)どこまでも泳げるような感じ
がしました。

「明易し」は夏の夜の短さを表した季語です。「短夜」ともいい
ます。俳句では日永は春、短夜は夏、夜長は秋、短日は冬と決まって
います。短夜の語は万葉以来の伝統があり、明けやすい夏の夜を
惜しむ気持ちは、後朝の歌としてしばしば詠われています。百人
一首にも入っている文屋深養父の「夏の夜はまだ宵ながら明けぬる
を雲のいづこに月宿るらむ」などが有名ですね。

□◆□…優嵐歳時記(124)…□◆□

    額の花青の冴えたる嵐あと    優嵐

「額の花」はアジサイの原種のガクアジサイを指します。房総半島、
三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島に野生のものが確認されています。
枝先に小さな花が群がり咲き、そのまわりを7、8個のひらひらと
した大型の装飾花がとりまいて、それが額縁のように見えることから
この名前になりました。装飾花はがく片が花弁化したもので、四枚
あり、普通は淡紫色、または青紫色です。

私の職場の近くにもアジサイとガクアジサイが並んで咲いている
ところがあります。アジサイはこのガクアジサイとヤマアジサイを
親としてできあがっています。どちらも梅雨時のしっとりとした
空気がよく似合います。

□◆□…優嵐歳時記(123)…□◆□

    資源ゴミ下げて見上げる梅雨の月  優嵐

明日は私の住んでいる地区の資源ごみ回収の日です。さきほど段
ボールをいくつも出してきました。私はよくインターネットの通信
販売を利用しますので、段ボールの空き箱がいつの間にかたまります。
今使っているこのパソコンも、デジカメも歳時記も身につけている
服もインターネットで買いました。

アパートの前にある資源ごみの回収場所へ折りたたんだ段ボールを
持って出て空を見上げると、西の空にきれいな三日月が出ていました。
今日は陰暦の5月6日ですから、正式には三日月とは言わないのかも
しれませんが。

「梅雨の月」はそれだけでひとつの季語になります。昼間であれば
「梅雨晴間」ですが、夜なら、梅雨の合間を縫って顔を出した月を
愛でて、これを季語としたのですね。春の月や秋の月とはまたひと味
違う風情を感じるものです。

□◆□…優嵐歳時記(122)…□◆□

    抜き去りて皐月の風を正面に  優嵐

「皐月」は陰暦五月の異名です。おおむね新暦の六月ごろにあたり
ますが、2004年は閏二月があったため少し遅れて、今日が5月5日
です。端午の節句ですね。「五月晴れ」というと今では、新暦の
五月の晴天を指して使うようにもなっていますが、本来は梅雨の合間
の晴れ間を指したものです。

陰暦五月の異称は他に「早苗月」「橘月」「五月雨月」「月見ず月」
「たぐさ月」などがあります。いずれも自然の風物が浮かんでくる
風流な名前といえます。

この句は私がオートバイに乗って、前をゆっくり走る大型トラックを
抜き去った瞬間の様子を詠んでいます。前方の安全を確認し、右へ
寄ってウインカーを点け、スロットルを回して、一気に加速します。
視界を遮っていたトラックの大きな背中から解放された爽快感。
だからオートバイは素敵です。

□◆□…優嵐歳時記(121)…□◆□

    頂に夏至の夕陽の当たりけり  優嵐

台風6号は今朝高知県室戸岬に上陸した後、淡路島を縦断、お昼ごろ
明石に再上陸しました。私は今日、神戸で会議があり、台風がまさに
明石に上陸しようとしているころ、海沿いのHAT神戸にいました。
風と雨が凄くて、風に向かって歩けないほどでした。

会議の間に台風はどんどん北上し、夕方、姫路に戻る新快速の中から
は青空を背にした明石海峡大橋を望むことができました。台風通過中
はおそらくこの橋も通行止めになっていたことでしょう。

今日は夏至。二十四節気のひとつです。北半球では太陽の南中高度が
最も高く、昼間の長さが一年中で最も長い日です。日本では梅雨の
真っ只中にあたるため、日の長さをつくづくと実感する日は少ない
ですが、このころ緯度の高い北欧などでは白夜となり、北緯66度
よりも北の地域では、一日中太陽が沈まず、「真夜中の太陽」が
見られるようになります。

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