優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年09月

□◆□…優嵐歳時記(207)…□◆□

    秋天へパラグライダーふわり出ず   優嵐

三連休の昨日、兵庫県北部から中部をドライブしてきました。途中
パラグライダースクールがあるさのう高原に立ち寄りました。
パラグライダー、私も2,3度体験したことはあるのですが、風
待ちがなかなか大変で、続けてやろうという気になれませんでした。
風が弱くても強すぎてもだめなんですね。

去年の秋、シャモニに行ったときのこと思い出しました。モンブラン
山群の途中にあるパラグライダー基地から次々に色とりどりの
パラグライダーが飛び出してきます。うまく上昇気流をとらえた機は、
そこからさらに上空へ舞い上がり、かなり長時間旋回しながら飛んで
いることができます。パラグライダーはもともとヨーロッパアルプス
が発祥の地らしいですね。

□◆□…優嵐歳時記(206)…□◆□

    明け方の雨あがりけり獺祭忌   優嵐

「獺祭忌(だっさいき)」は俳人正岡子規の忌日です。俳句には
なぜか忌日を季語にするという伝統があります。近代俳句の革新者
子規がわずか36歳で脊椎カリエスのために亡くなったのが1902年
9月19日です。「子規忌」「糸瓜忌」ともいいます。18日、絶筆
の三句を残して昏睡状態となった子規は、明けて19日の午前1時、
息をひきとりました。

子規は本名を常規(つねのり)といい、獺祭書屋主人・竹の里人・
香雲・地風升・越智処之助などの別名も用いました。子規(ホトトギス
の異名)という雅号も、23歳で喀血したときに「鳴いて血を吐く」
というホトトギスからとったものです。

獺とはカワウソのことで、カワウソは巣に魚を集めて貯蔵する習性が
あります。まるで魚を祭っているようだということで「獺祭」と言
い、転じて「散らかっている様」の意味になりました。「獺祭書屋」
とは書物が散らかった部屋のことで、子規が自らの部屋を謙遜して
呼んだものです。

□◆□…優嵐歳時記(205)…□◆□

    赤き実のぽつぽつ増えて秋曇   優嵐

秋の曇った天気のことを「秋曇(あきぐもり)」といい、「秋陰
(しゅういん)」ともいいます。移動性高気圧の影響を受けて、秋は
お天気が周期的に変わります。今朝は早朝にかなり激しい雨が降った
姫路でした。日中は少し日も差しましたが、おおむね曇り空でした。
この三連休はどうやら毎日こんなお天気になりそうです。

サンゴジュの実が赤く色づいてきました。これから野山は実りの季節
を迎えます。私たちは赤や橙色を見ると食欲を覚えます。これは類人
猿として果実をもぎとって暮らしていた時代からの記憶だという話を
聞いたことがあります。緑や青ではなく赤や橙に食欲中枢を刺激され
るのは、熟れた木の実の発する色だからなのでしょう。

□◆□…優嵐歳時記(204)…□◆□

    テント立て運動会の空の色   優嵐

集団検診のために会場の外にテントを立てました。戸外の日差しの
中でテントを組み立てていると、汗が流れます。青空を見上げて
思い出したのは、運動会の日のことでした。「天国と地獄」や万国旗、
フォークダンス、歓声、青蜜柑、梨、ほこりっぽい日差しの匂い…。

この週末は運動会のところが多いようです。最近では春に運動会を
する学校も多いうようですが、やはりスポーツの秋にこそふさわしく、
「運動会」は秋の季語です。

□◆□…優嵐歳時記(203)…□◆□

    曼珠沙華驟雨の露を残しつつ   優嵐

お彼岸が近づいてきました。田んぼの畦にはヒガンバナがいっぱいに
咲いています。畦全体が朱色に燃え上がるように咲いているところも
あります。「曼珠沙華」別名「彼岸花」。「曼珠沙華」とは、梵語で
天上に咲く赤い花を意味するのだそうです。

十月になるといつの間にかすっかり花は消えます。花の時期には葉は
なく、そのせいか、姿が他の花と異なりどこか不気味な感じがします。
「死人花」だの「墓花」だのと他の別名はあまりおめでたくないもの
ばかりです。鱗茎に多様なアルカロイドを持つ有毒植物で、日本全国
の人里に分布します。原産地は中国で、有史以前に日本に帰化したと
考えられています。

□◆□…優嵐歳時記(202)…□◆□

    秋の雷ドイツの本を読みながら   優嵐

今、アーダルベルト・シュティフターの『晩夏』(ちくま文庫)を
読んでいます。上下巻あわせて1000ページになろうかという長大な
物語でありながら、全編穏やかで控えめな人々の会話が自然描写の
中にちりばめられ、淡々と続いていきます。穏やかな大河を思わせる
不思議な小説です。ニーチェが、「繰り返し読むに値するドイツ
文学の宝である」と推賞しています。

仕事の休み時間に休憩室で安楽椅子にもたれかかりながら読んでいる
ので、うたた寝をしてよけいにすすみません。先を読まずにはいら
ない、というような作品ではありませんが、静かなBGMを思わせる
気持ちのいい作品です。それにしても読み始めたときは夏の盛りだった
のに、いつの間にか秋も半ばになりました。冬が来る前に読みきる
ことができるでしょうか。

□◆□…優嵐歳時記(201)…□◆□

    藁の香の道まであふれ刈田かな   優嵐

稲刈りシーズン真っ盛りです。昔は稲こきのあとの藁を藁塚にして田
に残したものでしたが、今では、コンバインが入って藁は稲刈りの
はしから細かく刻まれて田んぼに撒かれてしまいます。台風で倒れた
稲が多く、稲刈りはそれなりに大変なようですが、それでも見る間に
終わってしまいます。

稲刈りをしている田んぼからは新藁の香りがたちこめ、道を走って
いてもその香りが流れてきます。畦にはヒガンバナが咲き始め、日本
の秋だなあと思います。「刈田」とは稲を刈り終わったあとの田んぼ
のことを指します。日に日に刈田が増えていく今日この頃です。

□◆□…優嵐歳時記(200)…□◆□

    葉鶏頭静かに炎ゆる風の日に   優嵐

ハゲイトウはケイトウに近縁の一年草です。秋になって葉が頭部から
紅、黄色、斑入りなどと色がつき始めるところを鑑賞します。緑色
の葉との対象が鮮やかです。雁がやってくるころに色づくことから、
緑色に紅がさす種を「雁来紅(がんらいこう)」、黄色になるものを
「雁来黄」、緑、赤、黄の三色鮮やかなものを「十様錦」と呼びます。

花は葉腋にかたまってつきますが、緑色で全く目立ちません。真っ赤
なハゲイトウの鮮やかな色彩は秋の陽の中でいっそう映え、なんだか
燃え上がる残り火を見るような気持ちになります。この赤さはやはり
秋のもので、春や夏の色とはまた異なる趣です。

□◆□…優嵐歳時記(199)…□◆□

    うしろから煙の匂い赤まんま   優嵐

「赤まんま」とはタデ科のイヌタデの花の俗称です。秋はタデの
シーズンで、夏の終わりごろからいっせいに咲き出し、中でも
イヌタデは6月から11月ごろまで咲いています。紅紫色の小さな
花を赤飯にたとえて「赤まんま」「赤のまま」などと呼びます。

地味な花ですが、それだけに俳趣を感じる人が多くなったのか現代
になってよく詠まれるようになりました。イヌタデはタデ科の中
では最もよく見られ、湿気の多い道端や畑、庭先などに生えています。

□◆□…優嵐歳時記(198)…□◆□

    嵐去る秋の燕も去りにけり   優嵐

気がついたら、燕がいなくなっていました。つい先日まで稲田の上を
集団で飛び回っていた姿を見たのに。台風が来る前、9月のはじめには
すでにいなくなっていたかもしれません。バードウォッチャーは鳥の
種類を決めて、その鳥をその地域で初めて見た日付を記録するのだ
そうです。そして、最後に見た日付も。初見日は比較的記録が容易で
しょうが、最後に見た日というのは、なかなか難しいのでは、と想像
します。

それにしても、渡り鳥はどうやって旅立ちのときを知るのでしょうか。
何か合図があるわけでもないと思うのに、一斉にある日いなくなって
います。渡り鳥の習性はまだまだ謎に包まれている部分も多いとか。
あれだけ長い距離を地図も持たずに正確に飛んでいくということも
驚きですね。

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