優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年09月

□◆□…優嵐歳時記(197)…□◆□

    無花果を食べる風音聞きながら   優嵐

台風18号がやってきた日、午前中にイチジクをたくさんいただき
ました。台風が来る前にと大急ぎで摘み取られた新鮮なイチジク。
私にはこの秋の初物でした。まだ軸から白い乳液がにじみでる果実。
皮をむいて食べるとほどよい甘みが広がります。

果実といいながら、花は実の形をした花嚢の内にあります。西アジア
原産のクワ科の落葉樹で、地中海地方では四千年前から栽培されて
いたという記録があります。日本での栽培の記録は寛永年間(1624-44)
に長崎で種子を植えたのが最初です。

生で食べるのもいいですが、最近ではワイン漬けやジャム、乾果に
したり、和食、洋食の食材としても使われているようです。

□◆□…優嵐歳時記(196)…□◆□

    窓をうつ嵐鶏頭活けられて   優嵐

先日の台風18号は典型的な風台風でした。姫路では午前中から
風が強く、午後になって暴風になりましたが、雨が降り始めた
のは午後3時を過ぎてからだったと思います。「窓をうつ嵐」
という言葉はご想像どおり「旅愁」(犬童球渓作詞、オードウェイ
作曲)の二番の歌詞をヒントにしたものです。俳句も言葉の文芸
ですから、いろいろな文章や詩がヒントになります。

鶏頭はすでに奈良時代には中国を経て渡来していた古い外来植物
です。夏から秋にかけて鮮やかな色彩で庭や花壇をにぎわします。
品種改良によって、トサカゲイトウ、タマケイトウ、ヤリゲイトウ
など多くの種類があり、色彩は赤いものが主ですが、ピンク、黄色
などもあります。熱帯アジア原産の一年草で、一度植えると、種が
こぼれ落ち、毎年育ちます。

□◆□…優嵐歳時記(195)…□◆□

    祝祭を連れて台風接近す   優嵐

台風18号が最も接近していたのは午後4時ごろだったようです。風台風
で、お昼前から風がぐんぐん強まりました。窓ガラスが揺れ、庭の木が
揺れ、ありとあらゆるものが揺れていました。

姫路はあまり台風の深刻な被害にはあわない土地であるためか、子ども
のころから、台風というと、どこかわくわくした気持ちがありました。
子ども、いいえ大人でも日常とことなる何かが起こるというのはどこか
心ときめくものです。子どもには台風の接近は、どこか荒々しい神さま
がやってくるお祭りのような感じがしていました。

走る雲、窓を打つ雨音、うなりをあげる風、いわば一種の祝祭です。
そのあとのすがすがしい静寂。祭りのハレの気分に通じるのです

□◆□…優嵐歳時記(194)…□◆□

    夜の雨あがりし露草の青に   優嵐

昨夜は二度地震がありました。深夜の揺れはかなり大きく、1分以上
続きました。「恐い」とまではいかず、「お?これは?」という感じ
で揺れを味わっていました。噴火、地震、台風と忙しい日本列島です。

ツユクサはツユクサ科の一年草です。通勤に使うスーパーカブを置い
ている自転車置き場の横に、ツユクサが咲いています。小さな蛤形の
花が鮮やかな青さです。「月草」「青花」「蛍草」などの別名もあり
ます。古くから布を染めるのに用いられ、露草色、縹(はなだ)色は
この青花で染め上げた色です。

□◆□…優嵐歳時記(193)…□◆□

    新しき書物の匂い燈も秋に   優嵐

秋の夜の燈火です。「春の燈」には艶めいた感じ、「秋の燈」には澄んだ
感じがあります。春燈には遊びを秋燈には学問のイメージがします。秋は
燈火親しむ候と言われますが、空気が爽やかになり、気持ちを集中して
読書に向かうことができるからでしょう。

一昨日、インターネットで注文した新刊書が届きました。新しい本という
のはいいものです。図書館で借りる本もいいですが、新しい本のあの
ぱりっとした感じ、まっさらな雰囲気、それだけで本に新しい魅力が加わる
気がします。

ここで私は「燈も秋に」という言葉を使っています。これは臼田亜浪の
「燈も秋と思ひ入る夜の竹の影」という句を見て真似をしたものです。
歳時記には古今の名句が並んでいます。それをお手本にするのも俳句を
学ぶひとつの方法です。ちなみに、亜浪は私の師で「水煙」の主宰である
高橋信之先生の師である川本臥風の師になります。

□◆□…優嵐歳時記(192)…□◆□

    帰り道はや刈られたる稲田かな   優嵐

今朝も涼しく、九月を実感しています。朝方は黄金色に稔っていた田
が、仕事を終えての帰り道ではすでにすっかり刈り取られていました。
これから一枚、また一枚と刈田が増えていくことでしょう。機械化が
進み、最近では農作業をすべて営農組合にまかせている家も多いです
から、大型機械が入ってあっという間に刈り取ってしまいます。

子どものころは刈り取られたあとの田んぼが遊び場でしたが、最近では
そんな子どもの姿もすっかり見かけなくなりました。藁を束ねて積み上
げてある「ツボキ」の上に乗っかって倒して叱られたりもしましたが、
最近では藁もすぐに燃やされてしまうことが多いですね。

□◆□…優嵐歳時記(191)…□◆□

    それぞれの曲がり角いま虫すだく   優嵐

秋に鳴く虫を総称して「虫」といいます。これだけで秋の季語です。
平安時代からすでに虫という和歌の題は秋にたてられていたという
伝統があります。「もののあわれ」を感じさせますが、これは日本人
に特有の感情のようで、それは日本語とおおいに関係しています。

日本人は虫の音を言語脳で意味のある声として聴きますが、西洋の人
たちは無意味な雑音として処理してしまうそうです。夏の暑さが去り、
夕闇が濃くなる中からリリリ・・と聞こえてくる、虫の声、この情趣
は日本語を母語としない人々には理解されないのか、とある種の感慨
があります。

今朝は雨が降って急に涼しくなりました。いろいろな方々からそれぞれ
の消息を聞き、それぞれの秋を思っています。

□◆□…優嵐歳時記(190)…□◆□

    あぜ道をランドセル行く九月かな   優嵐

今日から二学期が始まりました。始業式を終えた子どもたちがあぜ道を
並んで帰っているのに出会いました。ランドセルの色が新鮮でした。
九月、上旬はまだまだ残暑が厳しいですが、「暑さ寒さも彼岸まで」と
言われるように秋分の日を過ぎると、夏の気配も色あせて秋が深まり
ます。

夏休みが終わるせいか、世間的にも「夏は終わった」というムードが
強くなります。俳人はすでに一ヶ月近く前から秋の気分に浸っています
ので、こうした世の中の空気がまた面白くもあります。

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