優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年10月

□◆□…優嵐歳時記(237)…□◆□

  大嵐去りし雲間に上り月    優嵐

台風23号(アジア名ではTOKAGE!)の暴風雨が姫路周辺で最も
激しかったのは夕方の5時から6時ごろにかけてでした。午後
8時過ぎには雨がやみ、上弦の月が出ていました。すでに昨日
からたっぷり雨が降っているため、市川の水位があがり、水面
がすぐそこに感じられました。

今も風は時おり強く吹きますが、かすかな虫の音も聞こえるよう
になっています。俳句で単に「月」というとすべて秋の季語に
なります。ここでとりあげている「上り月」は上弦の月のこと
です。月の右半分が輝いており、陰暦では満月になるまでの月の
前半に出ている月です。

□◆□…優嵐歳時記(236)…□◆□

  快晴のひと日が暮れて鰯あり    優嵐

また台風が接近しています。この前の週末は久しぶりに快晴に
めぐまれましたが、それもつかのまのことでした。鰯の旬は秋
です。おなじみの海魚で、暖流に乗って群れをなして近海におし
よせます。安価で食卓によく登場する魚でしょう。

この日は缶詰の鰯を食べました。缶詰なんて初めてだったので
すが、みそ煮の鰯が骨まで柔らかくすべて食べてしまいました。
ひとつ百円ほどの缶詰ですから、これは、なかなかいけるかも
と思いました。常備食になりそうです。

□◆□…優嵐歳時記(235)…□◆□

  新しき書籍が届く秋の宵    優嵐

本を読むのは大好きです。子どものころからずっと変わらずにある
趣味というと、これだけかも、と思います。私は読む本のほとんど
を図書館で借ります。でもときには買うこともあります。この場合、
利用するのはもっぱらインターネットの書店です。品揃えが豊富で
すし、注文した2,3日後には届くというのが気に入っています。

宵には、夜・夜半あるいは夜間の意味と、夜になってまだ間もない
ころ、という二通りの意味がありますが、この場合は後者です。
秋なればこその静かな安らぎを感じる言葉です。どこか人恋しい
ような、でも、ひとり静かにこのひとときを楽しみたいような、
そんなニュアンスがこもっています。

□◆□…優嵐歳時記(234)…□◆□

  赤ワインハーフボトルの夜長かな    優嵐

赤ワイン、といってもノンアルコールの赤ワインのハーフボトル
をいただきました。私はお酒にからっきし弱く、まったく飲め
ないわけではありませんが、すぐに真っ赤になってしまいます。
この夏はノンアルコールのビールが気に入ってオーストラリアや
イギリスのものを何本も試してみました。それでもお腹が空いて
いるとほんのり顔が赤くなります。

一年中でもっとも夜が長いのは冬至のころですが、「夜長」は秋
の季語です。それは季感を重視しているからです。十月ともなると、
日暮れの早さとともに夜がめっきり長くなったことがしみじみ
感じられます。その感覚を詠んでいるのですね。温め酒でも飲み
たいところですが、そうするとすぐに眠くなりますので、ノン
アルコールワインでここはよしとしましょう。

□◆□…優嵐歳時記(233)…□◆□

  木犀の香の満つコート球を打つ    優嵐

私は、週に一度ナイターでテニスをしています。春には桜の花に
囲まれ、初秋には虫の音、そして最近はキンモクセイの香りが
いっぱいです。テニスは少人数ででき、思いきり走り回れる対戦型
のゲームですから、独特の面白さがあります。

キンモクセイは花より先に香りで気がつく花です。10月に入り
秋が本格化するころ、住宅街はこの花の香りに包まれます。夜でも
この香りでキンモクセイの花がさいているとわかります。

キンモクセイはモクセイ科で、オレンジ色の花をつけますが、
同じ仲間に白い花をつけるギンモクセイがあります。キンモクセイ
に比べると、葉が大型で花の数も少なくあまり目立ちません。

□◆□…優嵐歳時記(232)…□◆□

  草の穂でくすぐりし子のちりぢりに   優嵐

エノコログサやカルカヤ、あるいはススキやアシなどは秋に穂花を
つけて山野をいろどります。子どものころ、これをとって友だちと
首すじをくすぐったりくすぐられたりして遊んだものでした。いま
でもエノコログサを見ると、あのころの感触がよみがえってきます。

そうして遊んだ友だちも今では特に交流もなく、みんなどんな大人
になっているのか、私はまったく知りません。数年前に中学の同窓会
があったようですが、私は出席しませんでした。なんとなく、あの
ころの友だちには子どもの姿のままで、記憶の中にとどまっていて
ほしいのです。

□◆□…優嵐歳時記(231)…□◆□

  ぬきしまま枝豆かかえ大またに   優嵐

職場の近くに大豆畑があります。休耕田対策の大豆畑です。この週末
には観光客をよせて大豆を収穫するお祭りが開かれるようです。一部
の大豆畑はすでに収穫されていました。枝豆をゆでてお祭りでビール
とともに販売するのでしょうか。枝豆は未熟の大豆です。莢が枝に
ついたまま売られたため、この名前がつきました。

兵庫県で枝豆といえば、丹波篠山の丹波黒大豆が有名です。10月中旬
から下旬の、枝が枯れかかる寸前に収穫します。「丹波黒大豆枝豆」
は、やわらかく甘みがあり、むっちりとした歯ごたえで、深い、独特の
旨味があります。昨年、丹波出身の同僚から土つきのままの枝豆を
いただき、ゆでて食べました。やっぱり一味もふた味も違いました。

□◆□…優嵐歳時記(230)…□◆□

  秋あざみ夕日斜めに差しきたり   優嵐

あざみにはいろいろな種類がありますが、季語として詠まれる場合、
単に「あざみ」であれば、春になります。夏、秋はそれぞれの季節
を冠して詠みます。いずれも晩春以後に花を開くため、夏の季語に
している歳時記もあるようです。季語はだいたいの約束ごとで、
絶対にこうでなければならない、というものではありません。

10月もあっという間に半ばとなり、日暮れが早くなって、日ざし
の角度にも秋の深まりを感じます。今日は午後ににわか雨があり、
それから少し気温が下がりました。バイクを飛ばして帰っていると、
風が冷たくなったことを実感しました。

□◆□…優嵐歳時記(229)…□◆□

  青空に向かいて林檎かじりけり   優嵐

一番好きな果物は何かとたずねられたら、迷わずリンゴをあげます。
メロンもみかんもキウイもぶどうも好きですが、たったひとつといえば
やはりリンゴです。リンゴは秋に実る果物の王として色、形、味、香、
栄養など、あらゆる面ですぐれています。ニュートン、白雪姫、
ウイリアム・テル、ビートルズ、アップルコンピュータ、など物語や
シンボルに多用されているのもリンゴの特徴です。

西洋リンゴは西アジアから東ヨーロッパ原産で、四千年以上前から栽培
されている最古の果樹のひとつです。エデンの園でアダムとイブが食べた
のはリンゴであるという説が定着しているのも、この歴史の古さゆえ
でしょう。日本には明治8年にアメリカから渡来し、青森県で旧弘前藩士
が初めて栽培したとの記録があります。その後青森県は主要なリンゴの
産地になっていきました。

□◆□…優嵐歳時記(228)…□◆□

  青空へ神輿差し上げ秋祭   優嵐

秋祭はもともと稲の収穫後に、新米を供えて神に感謝し、今まで田に
あって稲の稔りを守護してくれた神々が山に帰られるのを送る祭です。
五穀豊穣を神に感謝し、それを祝う祭ですから、農村を中心に始まって
います。禊や祓いの行事から始まった夏祭とはやや趣が異なります。

収穫を終えた人々は神輿を担ぎ、鎮守の森では神楽舞が催されます。
刈り取りが終わった田の上を流れてくる笛や太鼓の音色、神輿の飾り
にあたる日ざしにも秋ならではの情趣があります。すでに農作業に
携わる人が少なくなった地域でも秋祭は地域コミュニティの親睦を
はかる大切な行事として受け継がれているようです。

このページのトップヘ