優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2004年11月

□◆□…優嵐歳時記(277)…□◆□

   彩りはセピアへ十一月終わる   優嵐

今日で十一月も終わりです。みんな口々に日月の走り去る
速さを嘆きあいます。「十一月」は初旬に立冬を迎えます
ので、冬の季語になります。小春日和と呼ばれる穏やかな
陽気が続き、どこかへでかけるにも適した季節です。

北国からは雪の便りが届き始め、木枯しが吹き、紅葉は
散って、すべてのものが厳しい冬への態勢を整えていきます。
人々もいちだんとあわただしい十二月に向けて、心づもり
を始めるころです。


□◆□…優嵐歳時記(276)…□◆□

   冬浅し播磨の山の丸きかな   優嵐

「冬浅し」とは、冬になってまだ日も浅く、寒さも厳しく
ないころのことを指します。まだ本格的な冬ではないが、
それでもそこはかとなく冬のたたずまいがある、という
ニュアンスを持った季語です。

兵庫県にはあまり高い山はありません。中国山地の東の
端にあたり、なだらかで穏やかな山並みが連なっています。
そのせいでゴルフ場がブームになったときは、あっと
いうまにひとつの町にひとつといっていいほどゴルフ場が
林立しました。さすがに立ち行かなくなってあちこちで
閉鎖されているようですが。

でも、この丸くて柔らかな山の風景が私は好きです。

□◆□…優嵐歳時記(275)…□◆□

   冬めきてローラーボールの書き心地   優嵐

ローラーボールとは水性ボールペンのことです。もともと日本
生まれのこの筆記具、さらりとした書き心地が受けて外国でも
すっかり定着しています。先日LAMYのTipoローラーボールを手
に入れました。最初は同じメーカーのスウィフト・ローラー
ボールというのに目が行ったのですが、ちょっと高価で二の足
を踏んでいました。

インターネットの通販で買いますので、実際に使ってみていま
ひとつだと嫌ですから。それで試しにお手軽番のTipoにしました。
アルミのボディが軽快で、書き心地も申し分なく、気に入って
います。文房具は毎日使うものですが、なかなかこれぞという
ものが手に入りにくいものでもあります。

「冬めく」とは、気候が冬らしくなることをいいます。何を
どう「冬めく」と感じるかは主観的なものです。

□◆□…優嵐歳時記(274)…□◆□

    行き過ぎる雲に光を冬満月   優嵐

冬の月は満月であれ、三日月であれ、冴え冴えとした光
を放っています。月を愛でて、その調和のとれた美しさ
を楽しむのは秋ですが、冬の月はそうした美意識とは
一段異なるところにいます。何者も寄せつけない孤高の
美というものが、そこにはあります。

昨夜も今夜も姫路の空は雲が多く月は翳りがちです。
しかし、それでも雲を透かして地上に届く月の光で影
ができるほどです。これから先、月の輝く夜は冷え込む
ようになりますね。

□◆□…優嵐歳時記(273)…□◆□

   枯れきって薄かさこそ空を掃く   優嵐

「枯るる」または「冬枯」などとも詠みます。野山の草木が
枯色につつまれ、荒涼とした冬景色になっていくことを
さします。冬枯れの景色には寂しさよりも、むしろ私は
すっきりとしたいさぎよさを感じます。

万物が枯れきってしまえば、その底には新たな春への息吹
が兆しています。事実、樹木はすで冬芽を蓄え、きたるべき
春への準備を終えています。あとは厳しい寒さを乗り切って
春を迎えるばかりです。

□◆□…優嵐歳時記(272)…□◆□

   弓を射る冬の空気の中で射る   優嵐

小諸・懐古園の中には「小諸射院」という弓道場があります。
散策の途中に立ち寄って、弓を引く人たちの姿を見ることが
できました。放たれた矢がひゅっと冬の空気を貫いて的に
当たる音が聞こえます。私は弓を射たことはありませんが、
見ていると、気持ちのいいものだろう、と思いました。

冬は別名「玄冬」「冬将軍」などとも言います。冬の厳しさ
を表したもので、春が生命の誕生の季節だとすれば冬は死の
季節、色でいえば黒の世界です。

ただし、詩歌ではその厳しさが独特の魅力として詠まれて
います。高村光太郎は「きっぱりと冬がきた」と言いました。
生活や心象、さまざまの事柄のうえに鮮明な素材を与える
季節です。

□◆□…優嵐歳時記(271)…□◆□

   散紅葉集めし庭に陽の恵み   優嵐

この週末、小諸で見事な紅葉を楽しみました。紅葉は朝夕
の冷え込みが厳しい場所の方がよりいっそう鮮やかな色を
見せてくれます。小諸は城下町で、かつての小諸城跡が
「懐古園」という庭園になっています。

「小諸なる古城のほとり…」と詠った島崎藤村の記念館も
この中にあります。いま、ちょうど紅葉は散り際で、その
中を散策するのは楽しいものでした。千曲川を見下ろし、
ふり向けば噴煙をあげる浅間山が見えます。

「散紅葉(ちりもみじ)」または「紅葉散る」とも詠みます。
風に舞う紅葉、渓流を流れていく紅葉、庭に散り敷く紅葉
など、日本古来の伝統的な美を感じる季語です。

□◆□…優嵐歳時記(270)…□◆□

   冬うらら隅田の橋のたもとにも   優嵐

東京深川にある芭蕉記念館を訪れました。目の前を隅田川
が流れています。玄関前には小さな庭があり、白い八重の
山茶花が花をつけていました。芭蕉はここから「おくのほ
そみち」の旅に出たのです。

今日の東京は快晴。隅田川のうえをわたってくる風も、ま
るで春のようにやわらかなものでした。川べりには釣り糸
をたれる人、本を読んでいる人、犬の散歩をさせている人
など、思い思いに暖かな冬の日ざしを楽しんでいます。

「冬うらら」とは、冬の日の晴れて暖かいさまを表した
季語です。「小春」は初冬のころに限られますが、こちら
は冬全般に使います。

□◆□…優嵐歳時記(269)…□◆□

   陽を集め枯すすきなお枯れゆけり   優嵐

秋には柔らかく風になびいていたすすきも冬になると
葉も穂も枯れつくしていきます。さびて哀れを誘う情景
ではありますが、冬の日ざしの中で白く輝きこの季節
ならでの美しさも感じます。

今日は一日、長野県の小諸にいました。懐古園の紅葉を
愛で、浅間の眺めを楽しみました。色彩の中で、そこだけ
色が抜けたような、枯すすきの群れ、それもまた独特の
味わいがありました。

□◆□…優嵐歳時記(268)…□◆□

    鴨浮かぶ朝の河口の静けさに   優嵐

秋冬になると北からカモが渡ってきます。湖沼や河口など
で冬を越し、春になると再び北へ帰っていきます。季語と
しての「鴨」にはおもに中型から小型のガンカモ類が含ま
れ、雁や鴛鴦は別の季語としてたてられます。また、通年
いるカルガモは含まれません。

姫路にも多くのカモの飛来地があり、自然観察の森にある
桜山貯水池や市川の河口などはバードウォッチングには
最適の場所です。種類が多く、雄は特徴的な美しい羽の色
をしており、観察するのも楽しいものです。

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