優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2005年10月

□◆□…優嵐歳時記(579)…□◆□

   耳澄ます夜の底から残る虫  優嵐

10月もあと10日、今日はいいお天気でしたが、室内にいても
一枚上にはおりたくなる気温でした。秋が深まっています。
盛んに鳴いていた虫の声もいつのまにか少なくなり、夜が
ひっそりとしてきました。晩秋に入り、衰えてきたころの
虫の声を「残る虫」または「すがる虫」と詠みます。

コンビニには早くも年賀状印刷予約受付の貼り紙がしてあり、
もうそんな季節なのだ、とあらためて驚きます。一日一日は
何気なく過ぎ去っていくのに、ふとしたときにその歳月の流れ
の速さに驚くのは、何度経験しても不思議な気がします。

□◆□…優嵐歳時記(578)…□◆□

   秋の野に並びて座りお弁当  優嵐

今日もいいお天気でした。空は青く澄んで高く、暑くもなく
寒くもなく、何をするにも絶好のシーズンです。市川の河川敷
でカップルがお弁当を食べていました。ピクニックでしょうか。
秋の一日、アウトドアを楽しむことを「秋興」「秋の遊」など
とも詠みます。

山の緑と川面のゆらめきをながめるのも楽しいものです。
久しぶりに近くの山へでも行ってみたくなりました。姫路近辺
の低山に登るのは晩秋から冬、早春にかけての時期が最も
適しています。落ち葉を踏んで、陽だまりの中を歩くのが
楽しいのです。

□◆□…優嵐歳時記(577)…□◆□

   電車ゆくたびにひれ伏す泡立草  優嵐

「泡立草」はもともとアキノキリンソウのことですが、
いまではすっかりセイタカアワダチソウのイメージが強く
なっています。ここで詠んだ「泡立草」も線路に沿いに
黄色い花を咲かせているセイタカアワダチソウです。

セイタカアワダチソウはアキノキリンソウと同じキク科の
多年草です。北米原産の帰化植物で、太い地下茎を伸ばして
大群落を作ります。わずかな空地へでも進出し、廃墟や荒地
のシンボルとなっています。

□◆□…優嵐歳時記(576)…□◆□

   満月のあまねく山野照らしけり  優嵐

昨夜は満月でした。真夜中にベランダへ出て中天の月を眺めました。
満月は明るくまわりの屋根を照らしており、月の光で影ができて
いました。月は生と死の象徴であり、月にまつわる信仰や神話は
洋の東西を問わずたくさんあります。

日本ではツクヨミノミコトやかぐや姫、月に住む兎の神話がよく
知られています。潮の満ち引きは月が地球に及ぼす影響であり、
出産や死も月の影響が大きいといわれています。最も身近な天体
であり、たとえ人が足跡を記すようになったとしても、やはり
神秘の源であり続ける月です。

□◆□…優嵐歳時記(575)…□◆□

   いちめんのコスモスにある風の道  優嵐

コスモスは秋中咲いている花です。近くの休耕田の一部を利用
して、コスモスが植えられています。濃紫、ピンク、白のコスモス
が一面に咲き乱れているさまはいいものです。道の傍らに車を止め
て、写真を撮っている人もいます。そばへ寄ってみるとコスモス
のいい香りがします。

コスモスの姿は一見弱々しそうですが、意外にたくましく、どの
ようなところにも育ちます。風や雨にも強く、しなやかな強さを
感じる花です。原産地はメキシコで、日本には明治時代中ごろに
渡来しました。ですから、季語としては、近代俳句以降にしか登場
しないわけですね。

□◆□…優嵐歳時記(574)…□◆□

   雨音を聞いて湯にいる十三夜  優嵐

今夜は伊勢にきています。猿田彦神社でおこなわれる「おひらき
まつり」に参加するためです。屋外でのイベントの時間になった
ところで、雨が激しくなり、残念ながらそちらはパスしてホテル
に向かいました。

ホテルには最上階に屋根つきの露天風呂があり、雨にもかかわらず、
ゆったりと夜景をながめながらお湯につかっていました。そういえば
今夜は十三夜、旧暦の長月十三日です。十五夜とあわせてお月見を
する風習が日本には昔からあります。しかし、今夜はあいにくの
お天気ですから、月は雨雲の向こうです。

□◆□…優嵐歳時記(573)…□◆□

   掛稲の向こうに煙あがる昼  優嵐

刈り取ったばかりの稲は湿っていて、そのままでは脱穀できない
ため、数日から半月ほど天日にあてて干します。このときに
使われるのが「稲架(はざ)」です。姫路あたりでは木組みに
一本の竹などを横渡しにして稲を掛けますが、場所によっては
何段にも積み重ねるところもあります。

かつてはすべてこうして稲を天日干しにしていましたが、今
では、コンバインなどの普及で生脱穀、火力乾燥がおこなわれる
ようになり、稲架の姿を見ることも少なくなりました。しかし、
味にこだわる農家では今でも天日干しにされるようです。

□◆□…優嵐歳時記(572)…□◆□

   路地行けば金木犀の香るころ  優嵐

今日はいいお天気でした。お昼前に図書館までマウンテンバイク
で出かけました。家並みの中を走っていると、どこからともなく
キンモクセイの香りがします。晩秋の記憶と常に結びついている
香りです。

正午ごろ、鉄道の高架橋に沿って走りました。6月の同じ時刻の
ころは、ほとんど影ができていなかったのですが、今日は北西側を
走る側道がすっぽり影になっていました。太陽の南中高度がそれ
だけ低くなっているのだな、と実感しました。

□◆□…優嵐歳時記(571)…□◆□

   和太鼓のとんとこ響く秋うらら  優嵐

「秋うらら」は「秋麗(しゅうれい)」と用いることもあります。
「麗か」は春の季語ですが、「秋うらら」は秋晴れの暖かな日に
春のうららかさを重ねたものです。空気の澄んだ秋晴れの清々しさ
を感じる季語です。

市川の河川敷の運動場でどこかの保育園児たちが運動会をして
いました。今日は朝から晴れ上がった空で、日中は暑いほど
でした。しかし、それでも秋が深まっていることは野山の色
からよくわかります。

□◆□…優嵐歳時記(570)…□◆□

   ほの暗し秋雨の日のキーボード  優嵐

昨日は快晴でしたが、今日は朝からしとしとと雨が降り続いて
いました。雨の日は昼間でも手元が暗くなり、パソコンのキー
を打つにも少し灯りがほしいな、という感じになります。
昼間から蛍光灯をつけてパソコンに向かうこともあります。

秋の長雨のことを「秋霖(しゅうりん)」といいます。秋雨
前線が停滞し、何日もぐずついたお天気が続くことがあります。
春に菜種梅雨があるように秋にもこうした特有の雨の語があり、
日本はやはり雨の国だ、と思います。

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