優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2005年12月

□◆□…優嵐歳時記(636)…□◆□

   枯蘆に夕べの雨の降りにけり  優嵐

今日の姫路は午前の早い時間から雨になりました。昼ごろ一時
やみましたが、午後には再び降りだし、今も静かに降っています。
家の前を流れる市川にヒドリガモがきているのが見えました。
今年は鴨類の姿が少ないと思っていたのですが徐々に姿を見せて
くれています。

雨でしたが、夕方、傘をさして川べりを散歩してきました。雨の
日はまた雨の日なりの自然の姿が楽しめます。散歩するたびに
少しずつ歩く経路を変えていくのもおもしろいものです。川岸に
生えていた蘆(あし)も今はすっかり枯れています。明日は冬至。

□◆□…優嵐歳時記(635)…□◆□

   枯れ踏めば乾きったる音ばかり  優嵐

冬の深まりとともに、野山は枯れ一色になっています。落葉樹
は葉を落とし、落ちた葉もすでに色を失いました。ついこの
間まで輝くような黄色だったイチョウの葉も、今では裸木の
周りに色を失って溜まっているだけです。

こうした冬枯れの景色もまた古くから日本人の心をとらえて
やまないものでした。色彩に満ちた春、夏、秋の三季に対する
冬の枯れです。

□◆□…優嵐歳時記(634)…□◆□

   ものの音みな鋭角に霜の朝  優嵐

寒さが厳しい朝は何もかもが鋭く感じられます。春の柔らかく
穏やかな朝が絹織物のようだとしたら、冬の朝は研ぎ澄ました
刃物のようです。

週末から続く寒気で、東海地方まで大雪です。しかし、雪が
降り積もってしまえば逆にこうした鋭さは消えます。積雪が
風景を丸くしますし、雪が積もってしまえば、むしろ寒さは
和らぐというお話を聞いたこともあります。

□◆□…優嵐歳時記(633)…□◆□

   寒波急夕焼けの色あざやかに  優嵐

日本列島への寒気の吹き込みが続き、各地で記録的な大雪になって
いるようです。姫路でも今朝はほんのうっすらとですが雪が積もって
いました。日中も季節風が強く、気温が上がりませんでした。夕方
になっても日陰には雪が残り、氷が解けずに残っているところ
もありました。

日暮れは早く空気が冷え切っているせいか、夕焼けの彩度が高い
気がします。夏のような空一面を覆って展開する壮大な夕焼け
ではありませんが、空の底の部分に輝きが残り、それはそれで
また美しいものです。

□◆□…優嵐歳時記(632)…□◆□

   枯色を集め明るき火となりぬ  優嵐

風が強くて寒い一日でした。日本海側はこの週末大雪の恐れが
続いていますね。12月としては記録的な大雪だということです。
名古屋あたりまで積雪で雪害も心配されています。今年は10年
ぶりの「寒冬」になりそうだとのこと。

寒波の影響で日本海は時化が続き、ズワイガニ漁が打撃を受けて
いますし、暖かい愛媛でもミカンの雪害が深刻だとのことです。
自然の力は実に大きく、ほんの少し針が上下に振れるだけで
人間の生活にこれほど大きな影響を及ぼすものなのだ、とまた
実感しています。

□◆□…優嵐歳時記(631)…□◆□【冬の月】

   樅の木の木の間を漏れし冬の月  優嵐

今宵は満月です。最近は日暮れが本当に早いので、夕方の散歩も
すぐに暗くなってしまいます。川に沿って歩いていると月が昇って
きました。月の光が川面に反射してきらきらと光っています。

近所に修道院があり、その周りに樅の木が植えられています。
中へ入ることはできませんが、附属の病院施設や老人保健施設
をぐるりとひとまわりするのはよく歩く散歩コースです。
樅の木のむこうに輝く月が見えました。月は世界にたったひとつ
ですが、さまざまな状況、風景の中でその月を見上げる心は
人の数だけあるのだ、と思ったりします。

□◆□…優嵐歳時記(630)…□◆□

   除雪車の大き影行く夜の道  優嵐

北陸地方は大雪の恐れがあるようです。先日、長野県の北部へ
行ったときも、松本市では全く雪がなかったのに、大町市まで
来ると雪がちらほら見えはじめ、それからはどんどん雪の量が
増えていきました。

夜の国道を除雪車が通っていくのに会いました。スキー場の
山小屋で眠った朝、除雪車が作業している音が枕元に低く響いて
きました。ほとんど雪の降らない瀬戸内沿岸部に住む人間に
とって雪はエキゾチックなものですが、雪国の方にとっては、
白い魔物とでも呼ぶべきものかもしれません。

□◆□…優嵐歳時記(629)…□◆□

   月光の冴ゆるを受けしたなごころ  優嵐

「冴ゆる」とは、寒さが極まって、透明に澄んだ冷たさをあらわす
季語です。鮮やかさにも通じ、技の切れ味にも「冴えた技」などと
用いられます。鋭利な刃物でさっと切り取ったような感覚といえます。

満月が近づき(今日は旧暦の霜月十三日)、月の光が明るさを
増しています。しかし、日の光とは違い、明るくなっても暖かさは
ありません。むしろ冷え切った大気の中で青く冴えた月の光は
さらに冷たさを感じさせるものです。

□◆□…優嵐歳時記(628)…□◆□

   張られいる鉄鎖にありし霜の花  優嵐

ここ数日冷え込んでいます。朝の散歩のときは、あらゆるものの
上に霜が降りているのを見ることができます。「霜が降りる」と
いいますが、正確には土や草を濡らしていた露が小さな結晶と
なったものです。

霜は冬の代表的な季語のひとつで、多くの異称があります。
「霜の花」は霜を美化して花と見立てた比喩表現です。寒気が
厳しい頃の霜は「強霜(つよしも)」「深霜(ふかしも)」
「大霜(おおしも)」などとも詠まれます。

また、おもしろいところでは「三の花(みつのはな)」という
ものもあります。雪を「六の花(むつのはな)」と詠むところから
転じたのでしょうか?

□◆□…優嵐歳時記(627)…□◆□

   音すべて消して粉雪降り続く 優嵐

夜の間に降った雪がさらに積もり、山小屋の朝はとても静かでした。
単に車の音がないとかそういう静けさではなく、あたりの音を雪が
吸い込んでしまった静けさです。

森の木々も雪に覆われています。葉の残っている針葉樹は雪の重み
で枝がしなっています。針葉樹のあの形態は、雪の重みに耐える
には大変合理的な形だということに気づきました。広葉樹のような
樹形であれば、枝が折れてしまうでしょう。

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