優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2011年03月

□◆□…優嵐歳時記(2505)…□◆□

  なずな咲く野辺の光を歩きおり   優嵐

ナズナはロゼットで越冬するアブラナ科の冬緑二年生の雑草です。古くから日本にあり、土着の草のように思われますが、分布は人間が活動する領域に限られていることから、農耕文明とともに古い時代に渡来したものと考えられています。

近所の土手には、今、ナズナ、ホトケノザ、オオイヌノフグリがそれぞれ群落を作って咲いています。のんびりのどかな景色です。メディアを離れると、震災のことはどこか遠い夢のように感じられます。多分、メディアが発達するまでは、どれほど悲惨な災害の情報もその地域の外へ出ることはほとんど無かったでしょう。

ベトナム戦争を終結させたのはテレビの力だと言われています。アメリカ国民をはじめ、全世界の人がそのありさまをメディアで視聴し、ショックを受けて戦争反対の声をあげたのです。今、インターネットやそれをベースにしたソーシャルメディアが瞬時に世界をつなぐようになりました。

今回の震災でも世界中の人が日本のために心を痛め、祈り、援助の声をあげてくれました。原発事故の先ゆきはまだ不透明ですし、復興も長い道のりになることは間違いありません。しかし、世界中の人たちのこの心を知ることができたのは、貴重な財産になるのでは、と思います。


<やじろべえ>
国というのは磐石なものだと思っていた
しかしそうではないらしい
国家とは何かはっきりした形のものではなく
あるポイントでバランスをとっている
やじろべえのようなもの

腕の長さと先の錘は刻々と変わる
それをその都度調整し続けていく
うまく調整されているときは
やじろべえの上に乗っていることを誰もが忘れている

このままこの安寧が永遠に続く
そんな幻想を抱く
人生が80年だとしたら
一生の間安寧が続くことなどない

やじろべえが大きく揺れる時
初めてそのことに気づく
あわてるな
やじろべえは必ず立て直せる

私たちの父母も祖父母もそうしてきた
私たちにできないはずはない


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□◆□…優嵐歳時記(2504)…□◆□ 

  雉鳴いてわが足元をたつ真昼   優嵐

市川の川べりを散歩していたら、足元にやや大きめの鳥がいる気配がしました。アオサギだろうか、と思ってのぞきこんでみると二羽のキジが慌しく飛び立って行きました。その前に鳴声が聞こえ、「そうか、これはキジだったのだ」と初めてこの声の主に気がつきました。

キジの鳴声をお聞きになったことがあるでしょうか? 「キジは日本の国鳥で、草原や雑木林などに住み、春は雄がケーンケーンと雌を呼ぶ恋の声を放つ」と歳時記にはあります。この「ケーンケーン」ですが、私にはそうは聞こえませんでした。

この声は春になってからずっと耳にしていたのです。そして、どこかの家でニワトリでも飼っておられるのか?と思っていました。フォーンフォーンというか、鳥類の声には間違いないのですが、姿を見てようやく、「ケーンケーン」に納得しました。そう聞こえないこともないな、と。キジは日本特産の大形の鳥で、留鳥ですが、この声から春の季語になっています。


<未来の顔>
ものごとにはいろいろな面から
スポットライトをあててみないといけない
すべてがOKで素晴らしいというものはない

そのなかで何を重視して取捨選択していくか
人間にできることはそれだけ
いいも悪いも
長所も短所も
それはそのものをどう見るかによる

かたくなにただひとつの方向からしか
ものを見ないというのは
人間のおかす最大の過ちだ

正しいとずっと言われてきたことが
ある時点から全く逆になっていることもある
世界は変わっており
この瞬間に新しい世界が生まれている


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□◆□…優嵐歳時記(2503)…□◆□

  少年も少女も自転車春休み   優嵐

被災地への救援物資として、パンクしない自転車というのが大阪堺市から仙台市に送られたというニュースを見ました。タイヤに特殊な加工がされていて、瓦礫を踏んでもパンクしないのだとか。燃料不足の被災地で足として重宝されているそうです。

原発事故の収束はまだまだ先が見えません。さらに、停まっていた火力や水力発電所を再稼動させても、夏場の電力消費のピーク時にはかなり足りないようです。夏場にエアコンのないオフィスビルで仕事などできるものではありません。停電すると熱中症で亡くなる方が出ることも考えられます。

地震や津波よりもこの電力不足から日本のビジネス慣行がかなり変わるのではないか、と思います。今年の夏をなんとか乗り切るために誰もが知恵を絞るでしょう。これを機会にエコロジーでない働き方が変わるかもしれません。

服装はもちろん、仕事時間をフレキシブルにしたり、在宅でできる仕事は極力そうしたり、ということなどです。すでにノートパソコンひとつで仕事ができる業種は東京から脱出する動きが出ているそうです。何もかも東京を中心にして人もモノも集め、効率だけを優先してやってきたこれまでのやり方を、否応無く考え直さざるをえなくなっています。

ガラス張りの高層ビルを林立させ、エアコンで寒暑を消し去り、1分間隔で隙間無く運行する電車で人々を運び、24時間あらゆるものが起きて活動している、そんな街を維持していくには膨大な電力が必要です。電力を供給しきれないから原子力を使おうということになったのでしょう。

地震や津波は必ずまたやってきます。今回より規模の大きなものが来ないという保証もありません。それを覚悟で再度原子力発電所を稼動させるか、暮らし方を考え直すか、そういう課題を突きつけられているのです。


<ダイエット>
ダイエットのつらさは
そこにある好物が食べられないことだ
簡単にいくらでも手に入る大好物
それが一番の罠

二十世紀後半に至るまで
人類はずっと飢餓の恐怖の中で生きてきた
思考回路も身体の仕組みもそれに備えている
それが突然先進諸国では
過食と肥満とそれに伴う疾病の恐怖に変わった

人類文明もいまやダイエットの時期に入っている
そこにすでにあるものが利用できない
原子力はその象徴かもしれない

なければ我慢できる
あるのに我慢しなければならない
そこに究極の困難がある
ダイエットとは自らの本能的欲望を手なづけることなのだ

人類はそういう段階にまで足を踏み入れてしまった
踏み入れてしまった以上
ダイエットは続けなければならない


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□◆□…優嵐歳時記(2502)…□◆□

   青草の斜面を滑る子らの橇    優嵐

河川敷の斜面で子どもたちが遊んでいました。震災で避難中の子どもたちも今は春休みですが、間もなく新年度、新学期です。避難生活が長引くのは必至で、学校のことも考えなければいけないのでしょうね。

さて、坂井泉水さんの肖像画第12作です。『負けないで』(93.1.27)のジャケット写真を元にしています。ジャケットとしては唯一の正面、カメラ目線のものです。レコーディングスタジオの中で撮影されたものらしく、左側面やや下方から強い光が当たっています。


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マルマン画用紙厚口F6(407×320mm)を使用。線描の主なところにプラチナの筆ペン静雅を使いました。インクはカーボンです。筆ペンの線というのは、万年筆ともマーカーとも違うしなりと柔らかさがあります。彩色にはクレオロール、クーピーペンシル、クレヨンを使っています。


<鳥の目と虫の目>
人には二つの目が必要だ
鳥の目と虫の目
鳥の目は高く舞い上がり遠くまで見通す目
虫の目は足元の地面を注意深く見る目

時には虫の目だけに集中しなければならないこともある
つらい思いをしているとき
大き過ぎる課題に直面しているとき

先を見ると気持ちが萎えてしまう
そんなとき鳥は籠の中で眠らせ
目の前の小さなことだけに注意を向ける

けれど
時がきたら鳥を再び籠から放ち
先を見なければならない
虫だけに頼ると
崖に向かって歩いていてもわからない
鳥が警告の声を上げたら
進路を考え直すときだ

鳥と虫
ふたつのバランスをとっていよう
私たちは人間なのだから

□◆□…優嵐歳時記(2501)…□◆□

  春霰ひととき山野包み過ぐ   優嵐

昨日はお昼に霰が降りました。四月目前にしてこの寒さ、天気予報を見ると週明けからは気温が上がるようです。被災地の寒さを思うと早く暖かくなってくれることを祈りたいです。

今日は坂井泉水さんの月命日です。今は、『負けないで』、これしかないですね。


負けないで
   


阪神淡路大震災のとき、この歌に励まされた人は多かった。震災から二週間、行方不明の方や避難所にいらっしゃる方の数は未だ膨大で、今はまだ「がんばれ」とか「がんばろう」という時期にはなっていないでしょう。打ちのめされ、打ちひしがれ、あまりの傷の大きさに呆然としている段階です。

被災されたみなさんの心身のダメージの大きさは計り知れませんが、被災していない人たちも、ショックを受け止めきれていない状態です。さらに、原発事故、停電など、暗雲が垂れ込めています。でも、だからこそ今は、負けないでいよう、踏ん張っていよう、ここを耐えていこう、それを支える何かが必要です。

心によって支えられ、それによってどんな場所からでもまた新たな一歩を踏み出すことができるのが、人間の素晴らしさです。だから、明日のことはまだわからなくても、今日はとにかく『負けないで』です。そして、明日になったら、またその日を『負けないで』です。

また、被災地で救援活動に従事されているみなさんにも『負けないで』という言葉を贈りたい。想像を絶する困難の中、日々活動をされていることに感謝の気持ちでいっぱいです。

□◆□…優嵐歳時記(2500)…□◆□ 

  春の朝もっとも深く眠りけり   優嵐

地震のあと日経先物は暴落しました。リーマンショックのときよりも下げ幅が大きかったので、大勢の人が追証の発生で大変なことになっているだろう、と想像できました。たまたま何かを検索していてそういう方の質問が載っているページに入り、驚きました。

個人が十億円の損失です。別の方は四億円…。単なるストーリーかと思っていたら、実際に証券会社が追証発生で数十億の損失が出ているという事実をHPに載せていました。証券会社の中には証券部門そのものを廃業してしまったところもあります。

億単位の巨額損失に共通しているのはオプションの売り建てでポジションを持っていたということです。オプション取引の仕組みはややこしく見えますが、身近なものでいうと、保険があります。保険契約者は買いのポジションであり、保険会社は売りのポジションです。

今回の場合、地震そのものよりもその後の原発事故で売りポジションが吹っ飛んだ可能性が高いのではないか、と思います。地震発生と津波は確かにとんでもないことでしたが、その日の相場は比較的落ち着いていました。売りで損失を出した人は、地震発生の11日の夜に「プットの売り」ポジションを取ったのではないでしょうか。

「プットの売り」とは、日経先物が下がった場合、その損失を引き受けます、という意味で取るポジションです。その代り上昇した場合は、保険をかけていた買い手の「保険料」が手に入ります。週明けの14日から15日にかけて原発事故が深刻化し、日経先物は暴落しました。地震だけですんでいれば、日経先物は反発上昇したはずでした。その反発を狙ったところへ逆の大津波が来た形になったのです。

オプションの売りポジションは滅多に損をせず、細かな利益を積み上げていくことができます。ただし、相場が反対に大きく動くと損失はほぼ無限大です。普段ほとんど損をしませんから、売りのポジションは安全だと思い込んでしまうところがあります。津波は来ない、と思ってしまうのですね。


<あまりに日本的>
震災の混乱がおさまったら
日本は大きく変わるだろう

明治維新
黒船によって破られた江戸の眠りは
危機感の中で日本人の能力に火をつけた

敗戦
焼け野原となった都市と二発の原爆は
飢えの中で日本人の能力に火をつけた

そして今
巨大津波と原発事故の恐怖は
豊かさの中で鈍っていた日本人の能力に火をつけるだろう

内側から激発するのは苦手だけれど
外圧がかかったときの反発力と柔軟性は天下一品

変わるときはさっと方向を変え
渡り鳥の群れのように
どんな遠距離もものともしない
それが日本人の強み

負けないで
規律正しいだけじゃない
ここからこそ本領発揮



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□◆□…優嵐歳時記(2499)…□◆□

  坂上る男の抱く黄水仙   優嵐

キズイセンは小型で濃い黄色の花をつける春咲きの水仙です。「水仙」は冬の季語ですが、「黄水仙」と「喇叭水仙」は春の季語です。スイセンの仲間はもともと地中海地方に多く、50〜60種類が分布するといわれています。キズイセンもフランス南部のピレネー山脈からスペイン、ポルトガル、アルジェリアが原産地です。日本へは幕末に渡来しました。香りがよく、切り花として用いられます。

あと一週間で三月が終わります。ソメイヨシノの蕾がかなり膨らんできているのがわかります。増位山梅林では、白梅の最も遅咲きのものが八分咲きです。この白梅、全体は白い花ですが、ところどころ紅梅になっています。花粉の影響なのか、もともとは紅梅の系統なのか、一枝に紅白の梅が咲いているのは、趣があります。


<ジャンクフード>
久しぶりにスナック菓子を食べた
途中でやめようと思うのだが
なかなかやめられない

大人でさえそうなのだから
子どもなら無理もない

身体に悪いと大人たちは言う
でも
子どもの心身の成長のためには
オコサマ ノ ケンコウニヨイ
ものだけでは駄目なのだ

ジャンクフード
バカバカしい遊び
仲間たちと共有する秘密の何か

理屈じゃない
心が成長するためにこれらが必要


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□◆□…優嵐歳時記(2498)…□◆□

  北風の未だ冷たき彼岸の夜   優嵐

火曜日の夜にナイターでテニスをしました。真冬のような北風が吹いて気温が低く、ゲームをしてもまったく汗をかきませんでした。昨年の秋がなかなか涼しくならなかったように、春も容易に進もうとしてくれません。今年は桜の開花も遅くなりそうな気がします。

地震が東日本を襲った翌日、九州では九州新幹線が全線開通していました。通常であれば、トップニュースとして明るく取り上げられるはずが、震災一色となる報道の中で、すっかり忘れられている感じです。私も大阪へ行くJR内でその広告を見て初めて気がつきました。

しかし、YouTubeでそのコマーシャルを見て、とてもいい、と思いました。このままお蔵入りしてしまうにはあまりに惜しい。さらに、震災で気持ちが沈むときだからこそ、こういう明るいコマーシャルを見ると、ほっとします。





<表裏一体>
強みと弱み
長所と短所
利点と欠点
それらは同じコインの裏表
一方のみを取り出すことはできない

それなのにそのことに気づかない
長所を知りたければ
短所を掘り下げていけばいい

隣の芝生の青さを真似ようとするな
すべてに恵まれている人はいない
見えている部分の芝生が青いだけ

自分の庭の枯れた芝は目に付くが
青い部分は見落としがちになる
そのことを忘れないで

□◆□…優嵐歳時記(2497)…□◆□ 

  曇天や山路に満ちる木の芽の香   優嵐

なかなか暖かくなりませんが、森を散歩していると、木々が芽吹く独得の香りが漂ってくるようになりました。ちょっと生臭いような、形容の難しい香りです。震災と原発事故のニュースにどうしても気持ちが重くなります。それでも春は確実に進んでおり、ヤブツバキがぎっしり蕾をつけて次々咲いています。

マイミクの方が日記で次のような動画を紹介されていました。『失敗は伝わらない』として、大津波の教訓が活かされなかったということを、「失敗学」の畑村洋太郎教授が説明されています。津波だけでなく、背筋が凍るような思いをしている原発についても、果たして失敗を伝えることができるのでしょうか。





経済の上で、バブルは繰り返すというのは定説です。津波の教訓が活かされないというのも、一種のバブルなのだと思います。バブルは「儲かる」という欲に目がくらむのだし、津波や災害の教訓が伝わらないのは、目先の便利さと手軽さに流されてしまうからです。

福島原発の事故で、日本ではしばらく原発の新規建造はないでしょう。しかし、原子力に代るエネルギーが開発されなければ、日本でもあと三十年もすれば、再び原発を建設しよう、という機運が高まるはずです。「もう科学がはるかに進んだ」「安全対策は十分だ」という言葉がメディアに溢れるようになるに違いありません。バブルは必ず「今度ばかりは大丈夫」という声に乗ってどんどん膨らみますから。


<十六年>
阪神淡路大震災からわずか十六年
そう思っていたのだが
今は、よく十六年があったと思う

地球にとって十六年などほぼ同時に等しい
本当に同時に起こっていたら
日本は立ち直れなくなっていただろう

この十六年に蓄積したものが今活かされる
復興とは次の震災への備えをすることでもある

□◆□…優嵐歳時記(2496)…□◆□

  春分の朝の激しき風雨かな   優嵐

春分の朝は雨が窓ガラスに吹きつけていました。昼と夜の長さが同じになる日であり、太陽が真東から昇って真西に沈みます。彼岸の中日でもありますが、今年はそういうムードがまったくどこかへ行ってしまっています。久しぶりにテレビを見たら、コマーシャルのほとんどが公共広告機構のものなのに驚きました。

関西各地の自治体も応援部隊を被災地に送っており、姫路市の車両がテレビ画面に映っていました。兵庫県は阪神淡路大震災の現場を経験した人がまだ数多く現役にいらっしゃるため、その経験が役立つのではないか、と期待します。

阪神淡路大震災のとき、断水になった地域へ、その前年の夏に長期渇水に苦しんだ福岡市から、水を積んだタンクローリーが来てくれました。水そのものもさることながら、渇水に苦しんだ地域がわざわざ水を届けに来てくれたというのが、被災地にひときわ輝きをもたらしたと記憶しています。


<立ち上がる>
震災の報道を見ていると
阪神淡路大震災で蓄積された知恵が
確実に生かされていることに気づく

援助物資の振り分け
ボランティア活動
まだ他にもいろいろあるだろう

人間は小さな存在だけれど
小さな知恵を着実に積み上げて
先へ先へと進んできた

阪神淡路の悲惨な経験が
さまざまな場所で確実に生きている
悲劇は人間を打ちのめさない
必ずひとつ強く賢くなって立ち上がる


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