優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

2011年05月

□◆□…優嵐歳時記(2546)…□◆□

  いちばんに風受けている吹流し  優嵐

火曜日は雨になりました。台風が近づいているらしく、水曜、木曜も雨のマークが並んでいます。こんな時期に台風、と思いますが、2004年が同じような天候でした。梅雨の最中に台風が来て、師走に入ってからも最後の台風が上陸し、観測史上最多の上陸数でした。

雨なので鯉のぼりはあがっていませんが、いいお天気の日に五月の風を受けて泳ぐ鯉のぼりは気持ちがいいものです。あの吹流しというものですが、あれを考えたのは誰なのでしょう。鯉のぼりなら鯉だけで十分役割を果たしています。しかし、その上に吹流しを泳がせることによってさらに視覚効果があがります。最初に考えた人のデザインセンスのよさを感じます。


<道>
這えば立て立てば歩めの親心
ことわざはそう言う
では
歩めるようになったその先は何をするのか

外に向かって歩み続けることをやめ
人はどこかの段階で
内面に向かう旅に出なければならない

内面に向かう旅は
どこかへ行くことでも
何かを成し遂げることでもない

その旅には道はなく
ただ一歩を踏み出すことしかない
どこまで歩むかと問う必要はない
道はおのずから現れる


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□◆□…優嵐歳時記(2545)…□◆□

  羽ばたいて飛沫輝く夏の鴨   優嵐

鴨は冬の渡り鳥ですが、何か理由があって北へ帰らず、夏になっても残っているものをたまに見かけることがあります。それを「夏の鴨」といいます。ただし、留鳥であるカルガモは「夏鴨」といい、区別します。「の」が入るかどうかで意味が異なってきますから、俳句のややこしいところです。

ゴールデンウィークが終わると同時にぐんと気温があがり、また、夕暮れ時も随分遅くなっていることに気がつきました。六時半を過ぎてもまだ明るく、気分がゆっくりします。

  
<玩具>
はっきりした目的のために道具を求め
それを使う場合と
道具が先にそこにあって
それを何に使うかを考える場合

人間の創造性の真価が発揮されるのは
後者の方だ

飛行機も自動車も電話も録音設備も
生まれたときは何の役に立つか
誰もわからなかった

みんな高価な玩具だった
玩具をいじくりまわしているうちに
次々とアイデアが生まれ広がっていった

パソコンもインターネットもそうだ
何かわかるものよりも
何だかわけのわからないもの
それが次の世界を作る


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□◆□…優嵐歳時記(2544)…□◆□

  葉桜の広がる上をゆく雲よ   優嵐

Tシャツとショートパンツでパソコンに向かっています。ゴールデンウィークに入るころはまだひやりとした空気があったのに、昨日は真夏日になりました。こう一足飛びに季節が移ると、服装の転換にとまどいます。

チョコレートが溶け出すので、冷凍庫に入れました。ひやっとして固い口当たりが夏にはいいのです。夏でもアイスコーヒーよりはホットコーヒーが好みですが、水は冷たく冷やしたものがこれからは美味しい季節になります。


<ニ季>
突然の夏
開け放していた車のウインドウを閉め
エアコンのスイッチを入れる

去年の秋がまるで秋らしくなかったように
今年の春もほとんど春らしくなかった

梅も桜も確かに咲いた
けれど春の半ばに襲った震災で
気分はどこか重苦しいまま

細やかに移り変わる日本らしい四季ではなく
去年から季節がたった二つになってしまったようだ


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□◆□…優嵐歳時記(2543)…□◆□

  はつなつの船ゆくはるか播磨灘   優嵐

黄砂が去ったと思ったら、やはり突然暑くなりました。日中の外気温は27℃まであがり、夏日です。黄砂の間は増位山の頂から全く海が見えなかったのですが、昨日は淡路島の影も見え、気持ちのよい眺めでした。木々が葉を広げており、自然歩道は木陰に覆われるようになってきました。

一昨日、洗濯物を取り込んだらその端にスズメバチがいました。ブーンと羽音がするので気がつきました。あの大きさは驚きですね。昆虫とは思えない大きさです。あれに匹敵する昆虫といえばオオクワガタくらいではないでしょうか。あちらも驚いていたと思いますが、こちらも驚きました。窓を開け、タオルではたいて出て行っていただきました。


<日進月歩>
夕暮れて天井照明のスイッチを引いたら
点かない
点灯管の具合が悪いわけではない
照明器具そのものが寿命

新しい製品を買いに出かけた
蛍光灯が随分スリムになっている
点灯管すらない

パソコンやケータイのように
目だつ進歩はないかもしれないが
地味な家電製品だって着実に変わっている


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□◆□…優嵐歳時記(2542)…□◆□ 

  野鳥追いカメラ立夏の森に立つ   優嵐

増位山では、よく大きな望遠レンズつきの一眼レフを手にした方に出会います。野鳥の撮影なのでしょう。ドライブウェイから谷越しに森を見ることができるので、撮影条件がいいのかもしれません。昨日は増位山の藤棚の一画で、TAK.ECHOさんに偶然お会いしました。私が散歩のときに背負っているパタゴニアのアトムが目印になったようです。TAK.ECHOさん、これからもよろしくお願いします。

さて、坂井泉水さんの肖像画です。第15作になります。写真をいろいろ見ていて、そうか、この人は顔というよりそのたたずまいがいいんだ、と気がつきました。そこで、今回は顔があまり見えない半身像を描いてみました。95年3月のインタビュー記事の写真をもとにしています。原本はモノクロです。


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今回もカットキャンバス(520×450mm)に描きました。線描はプラチナ筆ペン静雅を主に使用し、髪の部分のみ万年筆を使っています。以前、万年筆のカーボンブラックが乾きにくいと書きましたが、時間をおけばいいのだ、と気づき今回は万年筆を使いました。髪の繊細な線は筆ぺんでは描けません。彩色はクレオロールとぺんてるくれよんです。

絵を描いていると、思いもかけなかったものが絵を描く道具に変身することがあります。そういうことがふとひらめいたときは、とても楽しい思いができます。絵を描くとものを見る目も変わりますが、発想も転換できるのではないか、と思ったりもします。


<白い花>
低木をかきわけて座り
アズキナシに双眼鏡を向けた
視界いっぱいに白い花が広がる

コナラやアベマキが成長すれば
彼はやがて駆逐される運命にある
それでもいまは存分に葉を広げ
花を咲かせている

初夏の風が吹き渡り
気持ち良さそうに花と葉を揺らしていく


□◆□…優嵐歳時記(2541)…□◆□ 

  谷に満つ新葉の先に藤の花   優嵐

立夏です。昨日近所のスーパーへ行ったら、「今日は春の節分です」といって恵方巻を売っていました。節分は冬から春になるときが、今では唯一のもののように扱われていますが、「節分」とは、季節の分かれ目ということですから四季それぞれに節分があります。ま、この場合は恵方巻を売るための手段、という気配が濃いですけれど。ということは、夏の節分、秋の節分にも恵方巻は売られるわけですね…。

今日は坂井泉水さんの誕生の「日」です。初夏らしい楽曲を選びました。ZARDの40枚目のシングルで、『星のかがやきよ』とダブルA面となった『夏を待つセイル(帆)のように』(05.4.20)です。映画『名探偵コナン 水平線上の陰謀』の主題歌です。海、光、風といった夏の空気を感じさせる言葉がちりばめられ、軽やかで明るいメロディーに乗って少年の恋心が歌われます。


夏を待つセイル(帆)のように



ところで、この題名ですが、あたりまえのようでいて、ちょっと思いつかない言葉だなあと感じます。夏も帆も、普通の言葉ですが、「夏を待つセイル(帆)のように」とは、なかなか結びつかないのではないか、と。

こういう不思議な言葉の並び、坂井泉水ワールドとでも呼べそうなこの取り合わせ、これは、やっぱり才能だなと思います。精進したりがんばったりしたからといって思いつけるものではない。もちろん、彼女が言葉を大事にし、日々周囲のあらゆることにアンテナをめぐらし、詞の世界に活かすべく努力を怠らなかったのは確かです。しかし、それでもこれはまあ、なんというか、<ギフト>ですね。

こういう言葉のとりあわせで成り立っている題名はほかにもあります。ざっとあげてみると次の楽曲たちが思い浮かびます。

『痛いくらい君があふれているよ』
『悲しいほど今日は雨でも』
『この愛に泳ぎ疲れても』
『この涙 星になれ』
『サヨナラは今もこの胸に居ます』
『さわやかな君の気持ち』
『世界はきっと未来の中』

題名を知らず、これらの題名の前半だけを見て、後半の言葉を思い浮かべられるかどうか。題名になっているだけあって、これらはすべてサビの部分で印象的に歌われます。彼女はこの言葉によってつむぎだされる世界を思い描きながら曲を作ったわけです。いずれも不思議で鮮烈なイメージを喚起してくれます。やられたな、と思ってしまいます。

□◆□…優嵐歳時記(2540)…□◆□ 

  白き花山に増えたり夏隣   優嵐

暦のうえでは今日が春の最終日です。さすがに気温があがってきました。黄砂は多少軽減しましたが、それでもまだ続いています。昨日の花はザイフリボクとTAK.ECHOさんに教えていただきましたが、そのさらに先にもう一本白い花をつけているかなり高い木があります。花を詳しく撮影できるほど近くへ行けなかったのは残念ですが(今日の写真)。

梅林まで帰ってくると、黄色い五弁の小さな花が地面のところどころに咲いているのに会います。キンポウゲ科のキツネノボタンかウマノアシガタかと思います。この花、曇天には花弁を閉じてしまいます。地面にはよくよく見ると他にも紫色の地面にへばりついたような花や、ピンの先ほどの花弁を持つ青い花なども咲いています。


<高嶺の花>
急斜面の先にその樹はあった
もう少し近づいて花を見たい

低木をかきわけて進むけれど
尾根筋は急激に落ち込んでいて
その先に踏み入ることは難しい

その白い花は夏近い空に向かって咲いている
樹の足元まで行ったら
花は頭上はるかで見えなくなるだろう

道の無い斜面を登り返すのも困難
ここから眺めているしかない
高嶺の花


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□◆□…優嵐歳時記(2539)…□◆□ 

  単線の電車が停まる葱坊主   優嵐

黄砂が続きます。数日は続く模様で、西日本は黄金週間が黄砂週間になりそうです。黄砂で空が曇ったようになることを「よなぐもり」といいます。通常の曇空というのではなく、なんだか妙に明るくてそれでいてまわりがどんよりとしています。

この時期、畑の隅に葱の花を見かけます。残して種をとるためのものです。葉の間から一本の花茎がたちあがり、頂に細かな白い花を球状につけます。これを坊主にみたてたのが「葱坊主」という季語です。

山へ行くと、いつの間にかコバノミツバツツジの花はほとんど姿を消していました。変わって白い花をつける樹木が目に付きます。ガマズミはすぐにわかりましたが、あとはよくわかりません。昨日の樹木にもう一度接近して花を撮影してきました。花は五弁、直径5cmほどはありそうです。細いプロペラのように見えます。


<過ぎたるは>
どこで描くのをやめたらいいか
誰か私に教えてくれ
ピカソはそう言ったという

絵を描いていると
描き足りないことよりも
描きすぎることが絵をだいなしにする
そのことに気づく

人生でもそういうことはよくある
言葉が足りないよりも
言わなくてもいいことを口走ってしまい
もめごとが起こる

過ぎたるは及ばざるが如し
問題は
どこが最適のポイントなのか
誰にもなかなかわからないこと


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□◆□…優嵐歳時記(2538)…□◆□

  黄砂来る空まで若草の色に  優嵐

朝、窓から外を見たら妙に明るいような霞んだような不思議な感じでした。インターネットのニュースで、今季はじめての黄砂だと知り、納得しました。いつもの年ならもっと早い時期に黄砂がやってきます。今年はそういえばまだだった、と気がつきました。山や里の新緑が黄砂のスクリーンに反射しているのか、景色全体が淡い緑色に染まっているように思えました。

八十八夜になって、やはり気温があがってきました。つい先日まで暖房が欲しいような日がありましたから、急に暑くなるのかもしれません。冬の名残のものを片づけて夏物を準備しました。


<夢>
夢を見ていた
ある場所へ行こうとして
電車に乗ったりバスに乗ったり
人に道を尋ねて歩いて

けれど
どうしてもそこにたどりつかない
街角で途方に暮れていると
不意に内側から声がした
「これは夢だ」

夢ならば夢から覚めればいい
そう思った瞬間
布団の中にいた

あれが夢ならば
これが夢でないとどうして言えるだろう
夢だと気づいていないから
懸命に何かを求めて右往左往する

ひとつの夢から覚めて
もうひとつの夢を生きる
この世を去るとき
内側で声がするかもしれない
「これは夢だ」


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□◆□…優嵐歳時記(2537)…□◆□ 

  谷底まで渦巻き連ね羊歯萌ゆる   優嵐

今日は八十八夜、立春を起算日(第1日目)として88日目です。「♪夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉がしげる」です。増位山ではウラジロが新葉を出す準備をしています。古い葉の葉柄の根元部分からぜんまいのように巻いたものが頭をもたげてきています。間もなくそれが広がり、直角を保って新しい葉を伸ばし始めます。いつもこれを見るたびに何か動物的なものを感じます。

久しぶりに猪に出会いました。あの骨折していた猪ではないように思います。がさごそと音がしたかと思うと猛スピードで森から出て駆け抜けて行きました。あの怪我をしていた猪なら人間を怖がりませんから、もっとのんびりしていると思います。もう一匹小さい猪が冬からちらちらと姿を見せていたので、きっとそちらでしょう。


<楽しく幸せに>
この世は辛い悲しいことが多すぎる
もうこれ以上そのようなものは必要ない
私は人々が楽しく幸せになるような
作品を描き続けたい

こう語ったのはルノワール
豊満で明るい女性像を数多く描いた
彼は晩年リウマチのために手が変形し
絵筆を持てなくなってしまった

そこで
手に絵筆をしばりつけて描き続けた
画風は変わった
それでも彼の画面には
苦労して描いているという痕跡はない

辛い苦しい悲しい
恨み言をいうのは多分一番簡単なこと


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