優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

タグ:天地真理

冬暁
クラシック音楽ばかりを聴いているわけではなく、天地真理も聴いています。ハイドンと天地真理、普通に考えたら全然分野の違う音楽ですが、YouTubeやSpotifyが勧めてくれたものです。

これ以外にもまだ最近勧められて結構いいかも、と思っている音楽があるのですが、聴く時間が足りません。この推薦機能はアルゴリズムに基づいて私の選好を分析した結果なのだそうです。新しい音楽に出会うにはとてもいい機能だと思います。

推薦されたからといってすべての動画を視聴するわけではなく、視聴しても必ずしも気に入るわけではありません。しかし、この機能がなければ興味を持つきっかけすらなかったと思えば「ご縁をつなぐ」貴重な機能だというわけです。
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桜冬芽
能天気とすら思われかねない天地真理の歌と、深刻にドラマティックに歌い上げる岩崎宏美の歌を比べたとき、『ゲド戦記』の翻訳者清水真砂子さんが児童文学と大人の小説の違いについて述べたエッセイを思い出しました。

彼女は子どもの頃、大人の小説を読んで「なんで不幸と恋愛ばかり書いているのだろう」と不思議に思っていたとか。私も同じような感想を抱いていました。にもかかわらず、大人の小説は児童文学より高尚なものとして扱われます。本当にそうなのでしょうか?

清水さんは児童文学の魅力について、「この世界は生きるに値する」そのことを繰り返し子どもたちに語るものである、と書いていました。児童文学は向日性に満ち、明日への希望を描きます。天地真理の全盛期の歌の世界もそれと同じです。
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冬紅葉
岩崎宏美の20代における声は「火曜サスペンス劇場主題歌」のような劇的で深刻な表現に適していました。ドラマティックに歌い上げ、人生の苦悩と葛藤を歌います。「歌がうまい」と誰でもわかりやすく、大人の表現だと誰もが感じるでしょう。

天地真理の声は違います。彼女が岩崎宏美を歌うかどうかは別問題として、そもそも声質がそういう深刻で劇的な表現にむいていません。同じように、20代の岩崎宏美が天地真理を歌っても、天地真理のような優しく広々と包み込むような歌にはならないと思います。

歌手の根本的な生命は声の質でしょう。一発で心をもっていかれるのは、そのときの自分の心の琴線にふれる声に出会ったときです。
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冬空
天地真理は20歳になる直前にデビューし、一貫して明るい天地真理の世界を歌い続けました。この間シングル11枚が連続してオリコン10位以内、うち5位以内10曲、1位5曲です。また、アルバムセールスも6枚連続3位以内、うち1位が4枚という実績を残しています。

しかし、9thアルバムからは歌う世界が変わってきます。この時期の彼女の歌が好きだという人もいますが、私は文句なしに全盛期の歌の方が好きです。アルバムの全曲が好きだといってもいいほど素晴らしい。

彼女の歌声のもつ優しさ、軽やかさ、暖かい包容力を活かす楽曲が提供され、それぞれのアルバムが珠玉の作品になっています。どこまでも爽やかで伸びやかで明るい。だから半世紀を経ていても瑞々しく響いてきます。
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聖樹
全盛期の天地真理の歌は、YouTubeでも1stアルバムから8thアルバムまで聴くことができます。歌の内容も明るいですし、フルファルセットで歌う独特の歌声が、すべての曲に彼女にしか出しえない明るさを与えています。

全盛期の彼女は輝く瞳と白い歯の明るい笑顔が魅力的です。ただ、歌だけを聴いていても、まるで声自身が微笑んでいるかのようです。なぜそのように聴こえるのか不思議なのですが。そのため、失恋の歌さえ痛みよりも明日への希望を感じます。

デビュー曲の『水色の恋』(当時19歳)は別れの歌です。淡い初恋、手を触れることすらかなわなかったような恋を歌っています。さよならさえ言わなかった、けれど心のどこかにその思いを持ち続け明日へ歩み出す、そういう歌になっています。
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クリスマス
最近ずっと天地真理を聴いています。そして自分の好みは「明るい」音楽なのだ、と気づきました。昔から演歌は好きではありません。同時にJ-POP領域でもそうなのです。

天地真理に気づく以前は岩崎宏美に気づいて聴いた時期がありました。ただ、彼女の歌で好きなのは10代のころのものに集中しています。20代では、『聖母たちのララバイ』(当時23歳)など一連の「火曜サスペンス劇場主題歌」が代表曲でしょう。

でも、これらの歌は私の好みにはあいません。演歌に近い世界観だからです。未練、すがる、待つ、耐える…、深刻に不倫や裏切り、夜の世界を歌っています。歌でそういうものを聴きたくはない。それが「大人の歌」だというなら私は子どもでいいかな、と。
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冬紅葉
YouTubeでは、クラシックの音楽家が日本の「流行歌」を歌っている動画をいくつも見ることができます。少し前までなら本格的に音楽の修練を積んだ歌手が「流行歌」を歌うなんて考えられなかったことですが、YouTubeが垣根を取り払ったと思います。

『ひとりじゃないの』を声楽家ののぞみさんが歌っている動画を見つけました。さすがクラシックのプロ。本家の天地真理と比較してみて、いかがでしょうか。彼女も国立音楽大学付属高校声楽科卒ですから、クラシックの基礎は学んでいます。
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銀杏落葉
天地真理と藤圭子は同い年なんですね。天地真理は51年11月5日、藤圭子は同年7月5日生まれです。藤圭子の声もYouTubeで聴いて、いいなあと思っていました。彼女たちが活躍したころは歌番組の隆盛期で、演歌もJ-POPも全部「流行歌」でした。

藤圭子の方がデビューはやや早い69年、つまり18歳になったばかりで『新宿の女』を歌ったわけです。天地真理のデビューは71年10月の『水色の恋』なので20歳直前です。二人とも歌と容姿があいまって爆発的な人気を獲得しました。

天地真理は元祖アイドルであり、後のJ-POPの源流のひとりになります。藤圭子の娘は宇多田ヒカルです。母娘そろって日本の歌謡史に大きな足跡を残す稀有な存在になりました。
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冬景色
天地真理は多くのカバーを残しています。中でも好きな曲のひとつに、5thアルバム(当時21歳)に収録されている『冬物語』があります。オリジナルはフォー・クローバーズが1972年に発表。作詞阿久悠、作曲坂田晃一です。

この曲も彼女の歌で初めて知りました。浅丘ルリ子と原田芳雄主演のドラマ主題歌とのこと。それにふさわしくドラマチックで哀愁のあるメロディと歌詞です。しかし、天地真理が歌うとそれでも明るく、冬よりも「春は近い」という歌詞の最後どおりの印象です。

この明るさは彼女の声が持つ独特のまろやかさ、包み込むような暖かさによるものか、と思います。明るい歌は飛び切り明るく、哀感漂う歌であっても涙に溺れさせることはない声なのです。
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時雨
ソニーミュージックの、天地真理『私は歌手』のサイトに「天地真理への100の質問」があります。そこで彼女は「岩崎宏美さんと同じ現場になると、歌がうまいなと思っていました。自分の番を忘れるほど(笑)」と語っています。

二人のナンバーを聴いてきて、二人の歌声には共通点がある、と感じました。どちらも空を連想させるのです。若いころの岩崎宏美の歌声は澄み渡った秋の空を、天地真理の歌声は少し霞みがかかった春の空を思い起こさせます。

天地真理の1stアルバム10曲目に入っている『恋は水色』、原曲はヴィッキー(当時18歳)です。77年に岩崎宏美(当時18歳)が森山良子とデュエットしている動画がありました。この頃の岩崎宏美の声は天下無敵です。
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