優嵐歳時記

俳句と季語。日本の自然と四季が生み出した美しい言葉を。

タグ:抗mag抗体陽性ニューロパチー

春休み
リツキシマブはワンポイントリリーフのような使い方はできるかもしれませんが、副作用の大きさを考えればこの薬が『夢の新薬』であるはずがない。さらに、「有効性」も臨床的な意味に過ぎず、QOLの改善には無関係な場合も多い。

頭を上げる角度が3度増えたとか、10mを歩く速度が1秒速くなったなんて、実生活とは何の関係もありません。患者の生活を大幅に改善するほどの効果があるなら、とっくにMAGNの治療薬として保険適応されています。認められないのはリスクに見合わないからです。

それなのになぜこんな書き方がされるかと言えば、それは医療側の「成果の誇示」、製薬会社側の「あわよくば的思惑」が手を握り合った結果です。研究にも開発にも資金が必要です。そうしたことを考えて『夢の新薬』を見るべきです。
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菜の花
MAGNに関する医学文献には「治療抵抗性」とともに、「リツキシマブがその中でも最も効果が高いとして期待を浴びており」といった言葉が出てきます。これが曲者です。これを読んだMAGN患者はリツキシマブを『魔法の新薬』と誤解します。

リツキシマブは、主にB細胞性悪性リンパ腫や自己免疫疾患の治療に用いられる分子標的薬です。この薬は、B細胞表面に存在する「CD20」というタンパク質を標的とする抗体であり、B細胞を破壊することで効果を発揮します。

MAGNに対し一定の有効性が認められたとする論文もありますが、3分の1の患者には無効で悪化する場合もあります。B細胞を抑制して免疫系全体に影響を与えるため、IVIgのような頻回投与はできません。B細胞はすぐに復活し、効果は一時的です。
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春の昼
医者を過剰に信頼し頼りきりになることは、慢性疾患の治療においては危険です。特にMAGNのような医療側にほとんど情報も実績も無いような稀少難病ではそれが言えます。医者は情報も手段も持っていませんが、何かをしようと考えます。

特にMAGNに精通している専門医なら別ですが、脳神経内科を標榜していても疾患の内容すらろくに知らない場合もありえます。MAGNは個人差が大きく診断が難しい疾病です。CIDPの患者会の中で出会った数人の患者さえ全員症状が違います。

ステロイドを試すなど愚かしいと思いますが、藁にも縋る思いの患者が「CIDPに効くんだからいちかばちかやってみる価値はある」と考えるのは当然です。そして不都合が起きれば苦しむのは患者です。医者側は「希少難病だし患者が望んだ」で終わりでしょう。
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彼岸過ぎ
MAGNの場合はさらに充電する方法もツギをあてる方法もわからない。だから「治療抵抗性がある」という言葉でお茶を濁しています。「治療抵抗性がある」なんて、病気が抵抗しているみたいですが、要するに医療が手出しできないということです。

これらの疾病を治すには、結核の治療を可能にした結核菌の発見と、それに続く抗生物質の発明のような、画期的なブレイクスルーの治療手段が登場しなければ無理です。

ところが、CIDPの古参患者の一部は「先生はちゃんと考えておられる。いろいろ試して治療するものです。患者は信頼してお任せしておけばよい」と言い張ります。MAGNにステロイドを試すなど、医学常識からはすでに明らかにおかしいとされているのにです。
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春暑し
CIDPの古参患者は自分たちが脳神経内科で「治った」経験から、脳神経内科医たちを過剰に賛美する傾向があります。しかし、疾患の病態生理について学べば、CIDP、MMN、MAGNいずれも脳神経内科が治せる疾患ではないことがわかります。

これらは免疫異常によって起きる疾患です。そしてその結果神経がおかしくなる。つまり免疫が川上で神経は川下であり、脳神経内科は診断や症状管理はできても治療はできません。治療できるのは免疫内科など免疫を専門に扱う科です。

ではなぜ今はそこが診ていないのか、といえば免疫の仕組みは複雑すぎて根本的な治療法は無く、症状を抑えることしかできないからです。電池切れを起こした電池へ充電する、破れた服にツギをあてる、脳神経内科ではそれと似たことをしているに過ぎません。
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いぬふぐり
MAGNの情報をいろいろ調べた末に至った結論は、医療に過剰に頼り過ぎないこと、でした。CIDPも難病ですが、MAGNはそれ以上に希少な、何もわかっていない疾患です。専門医といいますが、専門医自身ほとんど何もわかっていません。

CIDPには疾患概念の提唱から半世紀という歴史があり、世界中でそれなりの医学研究の実績があり、三大療法という治療法があります。脱力でよれよれになっていた患者が脳神経内科でそれらの薬剤を注入してもらえば復活します。

ただ、それは「治癒」ではありません。スマホの充電をするようなもので、一定期間(三週間程度?)が過ぎれば電池切れを起こし、再度充電しなければならず、一生それを繰り返します。一部それらと縁が切れ元に戻る「寛解患者」もいますが、なぜなのかは謎です。
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山桜
私がストロイドを試そうと思うといったMAGN患者に対し、「ステロイドはリスクをとるに値しない」と書き込むと、古参CIDP患者が「私は間欠療法をしてもらった。これならほとんど副作用は無い」と書いてきました。

私は思いました。---それはあなたがCIDPだから。あなたの病には治療効果があると認められているからこそ、そういう方法をとってでも投与しようとしてるわけ。はなから無効とされているMAGN患者がリスクを冒して受ける価値はない、と。

「自分には効いた、副作用は無かった。だからあなたも試すべき」と異なる疾病の人間に無責任に言うべきではありません。しかし、頭ではわかっていても理解していない。そして、それはMAGN患者自身にも言えます。症状は似ていても違う病気なのです。
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彼岸明
MAGNはつい最近までCIDPの一種とみなされていたことから独自の患者会はなく、CIDP患者会に間借りする形になっています。これによる弊害を感じました。CIDPの患者、それも古参の人ほどCIDPとMAGNは違う病気だということの理解が難しいようです。

CIDPにはIVIg、ステロイド、血漿交換という三大療法のいずれかが有効です。そのため、MAGN患者に対しても「何かをやってみるべき」という風潮が強い。MAGNの患者のひとりがステロイドを試そうと思うというのを聞いて、私はやめた方がいいと思いました。

なぜならステロイドは医療文献の大半でMAGNには無効と書かれているからです。ステロイドには、易感染性、糖尿病、血栓症、動脈硬化などさまざまな重篤な副作用があります。無効とほぼわかっている治療をこれほどの危険を冒してやる意味がありません。
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MAGNについて検索すると緩徐進行性の自己免疫性の末梢神経障害と書いてあります。CIDPに効くIVIg、ステロイドといった治療法が効きません。

CIDPの患者会には私も含めて数人のMAGN患者がいます。MMNの人もいます。しかし、CIDP患者会ですから、当然CIDPに関する話が中心で、最近発売になったハイゼントラとかヒフュデラ(ともにIVIgの一種)の話題で盛り上がっています。

CIDPから分かれた同様の疾患のMMNにはIVIgが有効です。それらを横目で見ていると、「効く薬」がない現実を嫌でも思い知らされます。同じ症状なのに彼らには有効な薬があって自分たちにはそれがないのはなぜ、と思うのは当然です。
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春の庭
日本でMAGNを研究した最初の論文といっていいのが『日本における抗ミエリン関連糖タンパク質神経障害の有病率と臨床プロファイル:133人の患者を対象とした全国調査研究』です。

2024年2月に「ヨーロッパ神経学誌(European Journal of Neurology)」に掲載されたもので、ここにMAGNの推定患者数は353人と書かれています。筆者たちは「2021年に確立された疫学的手法を用いて全国調査を実施した」と述べています。

つまり、専門の研究者ですらこの時期にMAGN患者の実数を初めて具体的に知ったということで、「治療」など夢のまた夢です。専門医すら生涯で患者に何人出会うか、片手で数えられるほどでしょう。
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